本年度は,ステロールトランスポーターであるABCG5/8に着目し,E3ユビキチンリガーゼによる翻訳後発現調節について,詳細な検討を実施した.まず,ABCG5 (G5) およびABCG8 (G8) タンパク質の発現およびN型糖鎖修飾の調節にE3ユビキチンリガーゼ (GP78,HRD1,RMA1,CHIP) が関与するか否かを検討した.それぞれ正常型またはE3活性欠損変異型のE3ユビキチンリガーゼを細胞に過剰発現させ,G5およびG8タンパク質の発現またはそのN型糖鎖修飾状態を解析した.その結果,HRD1 がG5タンパク質に対して,また,RMA1はG5およびG8タンパク質のそれぞれに対して,E3活性依存的にER関連分解 (ERAD) を促進した.一方,HRD1は,G8タンパク質の翻訳後N型糖鎖修飾を阻害することで,G8タンパク質の安定性を低下させることを明らかにした.興味深いことにHRD1によるG8タンパク質のN型糖鎖修飾阻害は,E3活性非依存的であるにも関わらず,その阻害には,HRD1のRING-finger domainが重要であることが示された.最後に,G5/G8タンパク質共発現状態においても,HRD1は,そのE3活性非依存的にG8タンパク質のN型糖鎖修飾阻害を介して,G8タンパク質の発現量を低下させ,結果として,G5/G8タンパク質複合体の形質膜上発現を負に調節することが明らかになった. 以上,本研究は,G5およびG8タンパク質における一部のN型糖鎖修飾が,翻訳後に引き起こされることを初めて同定し,これらのN型糖鎖修飾が,G5およびG8タンパク質の細胞内安定性を規定する重要な因子であることを明らかにした.また,E3ユビキチンリガーゼであるHRD1が,E3活性非依存的にG8タンパク質の翻訳後N型糖鎖修飾を負に調節するというユニークな機構を明らかにした興味深い知見である.
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