研究課題
抗がん剤の領域で、がん分子標的治療薬が脚光を浴びている。現在わが国において、イマチニブ(慢性骨髄性白血病)エルロチニブ(非小細胞肺がん)、ボルテゾミブ(多発性骨髄腫)などが承認されており、さらにこれらに続く多くのがん分子標的薬剤の開発が世界規模で進められているところである。現在わが国でも、これらの分子標的治療薬を用いたがんの化学療法が広く行われているが、抗がん剤耐性が大きな問題となっており、耐性機序を解明し実用的な耐性克服の方法を開発することは重要且つ緊急課題であると考えられる。本研究では、上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor: EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブの耐性機序を解明することを目的として研究を行った。まず、エルロチニブを含む選択培地でヒト非小細胞肺がんA549細胞株を培養し耐性株(A549/ER)を単離した。次に、エルロチニブ耐性と関与すると考えられているEGFRのT790Mの遺伝子変異に注目した。T790Mの遺伝子変異によってメチオニン残基が、エルロチニブのATP結合部位への結合を阻害し、耐性が獲得されると考えられているがA549/ERのEGFR T790Mを調べたところ変異は認められなかった。また、A549/ER細胞の抗がん剤に対する交差耐性を調べたところ、A549/ER細胞はパクリタキセル、ゲムシタビンにも高い耐性を示した。さらに、PCRアレイを行い、A549細胞とA549/ER細胞の遺伝子発現の比較を行ったところ、EGFRの発現低下、p21、fibroblast growth factor 2(FGF2)の発現亢進が認められた。現在、エルロチニブ耐性機序を分子レベルで解析している。
2: おおむね順調に進展している
エルロチニブ耐性細胞を樹立し耐性化機構について解析を進めている。
がん分子標的薬であるエルロチニブの耐性化機序を明確にする。具体的には、1)エルロチニブによってMVPが誘導されるかどうかリアルタイムPCRおよびイムノブロット法で調べ、エルロチニブがMVPの発現に及ぼす影響について、分子レベルで詳細に解析する。2)Vaultは、最近EGFシグナルの下流にあるチロシンホスファターゼHSP-2の基質であることが判明し、vaultが細胞内情報伝達経路で重要な役割を担っているではないかと考えられ始めている。エルロチニブが、MVP発現細胞およびMVPノックダウン細胞での細胞内情報伝達経路にどのように影響を与えているか詳細に解析する。3)抗がん剤を細胞の中から外に排泄する膜輸送蛋白質ABCトランスポーターとして、P-糖蛋白質、multidrug resistance-associated protein (MRP)1などが存在する。これまでに49種類のヒトABCトランスポーターの存在が知られているが、その中で薬剤耐性に関与することが報告されているのは、P-糖蛋白質、MRP1、MRP2、MRP3、MRP4、MRP5、MRP7、Breast Cancer Resistance Protein (BCRP/ABCG2), ABCA2/ABC2の9種類である。親株であるA549細胞とエルロチニブ耐性細胞における上記ABCトランスポーターの発現変化を解析する。
遺伝子工学用試薬代として250,000円、生化学用試薬代として200,000円、培養試薬および培養器具代として200,000円、学会への参加および学会発表の旅費として150,000円使用予定である。
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Oncol. Rep.
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Biol. Pharm. Bull.
巻: 34 ページ: 433-435
巻: 34 ページ: 1418-1425