本年度は、うつ病脆弱性、抗うつ薬応答性と遺伝子多型との関連について検討した。脆弱性における検討では、うつ病患者71名と健常人267名を対象として、各遺伝子多型について検討したところ、NAT -182T>C遺伝子多型において、変異型頻度がうつ病患者と比較して、健常人において高い傾向がみられた。これまでの我々の違う母集団による検討においても、変異型頻度がうつ病患者と比べて、健常人で有意に高く、本研究でも同じ傾向が得られたことから、日本人においてはNAT -182T>Cがうつ病脆弱性に関わっている可能性が示唆された。また、5HTT活性において、低活性型頻度が健常人に比較してうつ病患者において高い傾向がみられた。欧米人では、5HTT低活性型を有する群では、ストレスによりうつ病が発症しやすいとの報告があり、本研究の結果から、日本人においても欧米人と同じ傾向がみられた。さらに、抗うつ薬応答性における検討では、うつ病患者71名を対象として、各患者の診療録等から、効果不十分により抗うつ薬の服用が中止された患者は14名(19.7%)であった。中止薬剤ではミルナシプランが7名と最も多く、続いてセルトラリンが6名であった。中止された薬剤と各遺伝子多型との関連について検討したところ、BDNFおよびCREB1遺伝子多型において、セルトラリンの服薬が中止された患者6名全てでCREB1遺伝子型が変異型であり、さらにこの患者6名ではBDNF遺伝子多型の変異アレル頻度(0.667)がうつ病患者全体(0.514)に比べて高かった。このことから、BDNF遺伝子多型、およびCREB1遺伝子多型がセルトラリンの応答性に関わっている可能性が示唆された。本研究においてうつ病患者が71名と少なく、今後さらに症例数や対象遺伝子多型を増やしながら、臨床に有用なバイオマーカーを提供できるよう本研究を発展させていきたいと考える。
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