研究課題/領域番号 |
23790199
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
登美 斉俊 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (30334717)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 胎盤関門 / 内分泌 / トランスポーター |
研究概要 |
胎盤関門を形成する胎盤合胞体性栄養膜細胞は母胎間の物質透過を制御するだけでなく、内分泌細胞として妊娠期特有のホルモン制御において主要な役割を果たす。そのため、胎盤内分泌機構と透過制御機構の変動制御は連動している可能性があり、その解明は胎盤機能の個体間、個体内変動を理解する上で重要である。PKAアゴニストは、栄養膜細胞モデル細胞株であるヒト絨毛癌由来JEG-3細胞、JAR細胞においてヒト絨毛性ゴナドトロピンの分泌量を著しく上昇させるなど、胎盤内分泌成熟シグナルとして働く。PKAアゴニストはSLC22A11トランスポーターの発現を誘導するが、JEG-3細胞はSLC22A11基質である硫酸抱合デヒドロエピアンドロステロン存在下でエストラジオール分泌活性を示し、エストラジオール分泌はSLC22A11阻害剤の存在下で阻害されることが示された。このことは、SLC22A11を介した前駆体の取り込みが胎盤性エストラジオールの分泌制御因子として機能していることを示唆している。さらに、PKAシグナルは葉酸トランスポーターSLC19A1の発現も誘導し、基質であるメトトレキサートの取り込みも活性化させることが示された。以上の結果から、胎盤においてPKAシグナルは絨毛性ゴナドトロピンの分泌機能を誘導するだけではなく、様々なトランスポーターの発現量を変化させ、関門透過性に影響を与えていることが示唆された。特に、SLC22A11はステロイド前駆体を基質としているため、SLC22A11の発現はステロイド分泌と協調的に制御を受けている可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度における研究目標は内分泌成熟シグナルが関門透過制御分子に及ぼす影響を体系的に解明し、胎盤内分泌との関連性を見出す点にある。解析の結果、PKAシグナルによる絨毛性ゴナドトロピンの分泌誘導機構は、同時に胎盤関門における数多くのトランスポーター発現を誘導させることを明らかにできた。特に、胎盤関門SLC22A11を介した輸送制御がステロイド分泌と機能連関していることを示すデータが得られたことは予定以上の研究の進展であった。本結果は、胎盤内分泌機能と透過制御機能の協調性を示す重要な知見であり、平成24年度においてプロモーター解析等を通じて転写制御機構の共通性を明らかにし、ヒト胎盤を用いた個体間変動解析を進めていく基盤成果として、十分であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠期に特に濃度が上昇するエストリオールについて、その前駆体のSLC22A11に対する基質認識性について解析する。さらに、エストリオール前駆体のトランスポーターを介した細胞への取り込みがエストリオール分泌に及ぼす影響について、細胞株を用いた評価に加えて、ヒト満期胎盤ベシクルを用いた発現および機能解析を進める。解析を通じて、胎盤内分泌と胎盤関門透過性制御との関連性を機能面で明確化するとともに、トランスポーター発現量の個体差が、エストリオール分泌量に及ぼす影響について明らかにすることを目指す。 内分泌成熟シグナル分子をノックダウンし、SLC22A11やSLC19A1の発現量および薬物透過性に与える影響を解析する。さらに、トランスポーター遺伝子のプロモーター領域を増幅単離し、ルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポータープラスミドを作製する。プラスミド遺伝子導入後に胎盤内分泌成熟シグナルを活性化し、一定時間経過後のルシフェラーゼ活性をルミノメーターで測定する。予想される転写制御配列に変異を加えたプラスミドでの活性と比較解析することで転写制御配列を同定する。以上の解析を通じて、胎盤内分泌機能と輸送機能との協調的制御に関わる分子機構を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は効率的に研究を進めることができ、Genechip等にかかる費用を抑えつつ、十分な成果を得ることができた。また、旅費や学会参加費も結果として予定より抑えられ、平成23年度使用額は計画よりも少額となった。そのため、平成24年度使用予定額は増額となるが、試薬購入に充てることとする。理由として、平成23年度の解析の結果から胎盤エストリオール分泌に関わる前駆体輸送機構の重要性が示唆され、平成24年度はさらに解析を進める必要がある。ただし、エストリオール前駆体は高価であり、輸送機構解析には前駆体の放射標識体も入手する必要があり、当初計画よりも試薬購入に必要な金額が増加しているためである。本研究計画に必要な実験設備は学内および研究室内現有施設および機器を使用するため、高額な設備備品購入は必要としない。その他、研究成果発表のための学会参加費、および研究成果を英語論文として発表するための論文校閲費および投稿費としても使用予定である。
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