研究課題
薬物酸化酵素フラビン含有モノオキシゲナーゼ3 (FMO3) は、生体異物の第一相代謝反応において幅広い化学物質および食品由来成分トリメチルアミンのN-およびS-酸化反応を触媒する。FMO3はヒト成人肝FMOの主要分子種であるが、胎児型分子種が出生後に成人型分子種であるFMO3に置き換わることが報告されている。そこで本研究では、生体試料を活用して、成長に伴うFMO3表現型の個人差を明らかにすることを目的とした。小児個別肝ミクロゾーム中のFMO3含量は生後13日時点で得られた肝試料に比較して生後2年で得られた肝試料で高値を示した。これら肝ミクロゾームのトリメチルアミンN-酸化酵素活性はFMO3含量の間に相関関係が認められた。約50名の小児ボランティアの尿試料より得たFMO3代謝効率 (トリメチルアミン総量に対するトリメチルアミンN-酸化体の割合) を集団として解析した結果、被験者の年齢の上昇に伴いFMO3代謝効率の増加が認められた。小児の成長に伴い、表現型として評価したFMO3酵素活性は上昇することが推察された。これらのことから、FMO3の発現制御は、個人内および個人間で複雑に変動することが推察された。FMO3の発現制御に関わるFMO3遺伝子上流を解析した結果、FMO3遺伝子の転写開始点から5’-上流領域5.1 kbのハプロタイプは野生型を含め5種類に分類された。FMO3遺伝子のコーディング領域を含めたこれらの変異の更なる遺伝学的解析は研究協力者と進行中である。このFMO3表現型の個人差に関する知見は、FMO3を介した小児医療での薬物相互作用および医薬品適正使用あるいはトリメチルアミン尿症の対処法の構築の基盤的情報になると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
多数の小児ボランティアの尿サンプルを用いてFMO3表現型の解析を進め、小児の成長に伴い、表現型として評価したFMO3酵素活性は上昇することを明らかとした。さらに小児個別肝ミクロゾームを用いてFMO3含量およびトリメチルアミンN-酸化酵素活性の測定を行い、in vivo およびin vitro研究を進めた。さらにFMO3遺伝子の5’-上流領域の変異の解析を進めたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
小児ボランティアの尿サンプルを用いたFMO3表現型の解析は継続的に行い、解析する集団をさらに拡大する。論文報告および学会報告などを通じて、小児領域の臨床医の問合わせが増え、個別の共同研究を進行中である。小児肝ミクロゾームを用いた各種医薬品酸化酵素活性を測定し成人肝で認められる酵素活性との比較を行う。FMO3遺伝子5’-上流領域の転写活性の検討および遺伝学的な解析をさらに進める。
FMO3表現型解析および遺伝子型解析を進めるために、一般試薬、消耗品およびPCR用試薬ならびにDNAシークエンスが必要となる。FMO3遺伝子5’-上流領域の転写活性の検討をするために、培養用試薬および消耗品が必要となる。研究成果発表のため、学会参加費、論文校閲費および研究成果投稿費が必要となる。 23年度に3,400円の残金が発生したので、24年度請求額と合わせて執行する。使用計画には特に影響はない。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (7件)
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