我々は、酸化ストレス起因性肝虚血再灌流(I/R)障害時に小腸のP-糖蛋白質(P-gp)発現量が上昇し、MDR1 mRNAの変化を伴わないことを明らかにしてきた。近年、micro RNA (miRNA)が、薬物動態制御タンパク質の転写後調節因子として注目されている。本研究では、小腸に発現するmiRNA群に着目し、肝I/R後のP-gp発現変動におけるmiRNAの役割に関する検討を行った。その結果、miR-145がP-gpをコードするmRNAの3’非翻訳領域に直接結合することにより、P-gpの翻訳を抑制することを明らかにした。この成果は、miRNAによる小腸P-gpの発現制御を示す世界初の報告であるとともに、小腸P-gpが関与する薬物吸収動態の新たな変動要因である可能性を示唆した。さらに、薬物トランスポータ、薬物代謝酵素及びタイトジャンクションにより規定される小腸バリアー機能におけるmiRNAの役割について調査を行った。miRNAは小腸上皮細胞において、分化・構造・バリア機能の維持に重要な役割は果たしており、直接・間接的に薬物吸収に関わる薬物トランスポータ・薬物代謝酵素・タイトジャンクションの発現を制御することを概説した。また、病態時や年齢・性別により各個人のmiRNA発現量が異なることから、miRNAは薬物体内動態の個体内・個体間変動の一要因である可能性を示唆した。以上から、本研究成果は、個別化薬物療法の実現に向けた有用な基礎的知見であると考えられる。
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