研究課題
腎癌(腎臓癌)に対する化学療法の奏功率が極めて低く、新規の創薬ターゲットの同定と確立が急がれる。腎癌との強い関連性が示唆されている癌抑制遺伝子(VHL)については細胞内酸素濃度を反映することが示唆されている。本年度は、VHL発現の影響について検討する目的で、VHL遺伝子を欠損した腎癌由来RCC4(-)細胞とVHL遺伝子を導入した細胞株(RCC4(+)細胞)を用いて両細胞間で発現の異なるタンパク質の同定を試みた。また、臨床検体において腎癌の癌部と非癌部における発現比が大きく異なるタンパク質の中から前述のRCC4(+/-)細胞の検討で同定されたタンパク質のうち数種類について低酸素条件下での変動について検討した。塩化コバルト添加によって擬似的に低酸素状態にした786-o細胞における遺伝子発現量変動パターンはVHL遺伝子の発現が報告されているHCT-15細胞と比較して大きく異なった。両細胞間で顕著に相違した遺伝子としては、低酸素状態で発現変動する血管内皮増殖因子(VEGF)に加え、解糖系酵素である6-phosphofructokinase (PFK)の分子種などであった。近年、解糖系酵素が細胞質ばかりでなく細胞膜にも発現することや解糖以外の機能が示唆されており、PFKも腎細胞膜タンパク質であることが報告されていることから解糖系以外で癌と関与している可能性について検討する予定である。一方で、VHL遺伝子の普遍的な影響について検討する目的で、VHLを遺伝的に欠損したヒト腎癌由来培養細胞(786-O細胞)に対するVHL遺伝子導入細胞株の確立を試みた。セレクションしたVHL遺伝子導入786-O細胞株についてVHL発現量を検討したところmRNAレベル、タンパクレベルともに検出限界以下であり、引き続きの検討予定である。
2: おおむね順調に進展している
創薬ターゲット候補タンパク質について、mRNA発現量の定量系確立はおおむね順調に進展した。一方で、タンパク質発現量の定量系確立に至っておらず次年度の課題である。また、VHL欠失細胞株へのVHL遺伝子導入を行っているが、次の研究計画遂行に必要とされる発現量には到達しておらず引き続き検討が必要である。
創薬ターゲット候補タンパク質について、低酸素下での検討に加え、低栄養下でのmRNA発現量の変動を検討する。また、他の培養細胞系についても同様の検討を行う。一方で、同タンパク質の定量系確立を目指す。また、VHL欠失細胞株へのVHL遺伝子導入実験を継続する。
次年度研究費は、培養細胞における創薬ターゲットタンパク質を検出するためのmRNA定量およびタンパク質定量系確立に必要となる試薬ならびに遺伝子・タンパク質の抽出や精製にかかる試薬などの消耗品費、また、細胞培養を行うための器具や培養液等の試薬代に当てる予定である。さらに、研究費の一部は、本研究の成果を学術論文・学会発表等の手段によって社会へ発信するための旅費等として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)
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