研究課題/領域番号 |
23790215
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研究機関 | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
研究代表者 |
山口 朋子 独立行政法人医薬基盤研究所, 創薬基盤研究部, 研究員 (50580130)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | アデノウイルス / 自然免疫 / 小分子RNA |
研究概要 |
アデノウイルス(Ad)ベクターは、高効率に種々の細胞に遺伝子導入可能なことから遺伝子治療および基礎研究で汎用されている。しかしながら、Adベクターは生体内投与直後、強い自然免疫応答(炎症性サイトカインやI型インターフェロン(IFN)の産生等)を惹起することが大きな問題となっている。そこで、本研究では、近年申請者らが明らかにしたVA-RNAによって惹起される自然免疫応答のさらなるメカニズム解明を行うこととした。VA-RNAは、Ad複製時にウイルスdsRNAによるPKRの活性化を阻害する中心的な働きをしている。したがって、VA-RNA欠損非増殖型Adベクターは増殖能が乏しく、ベクターの大量調製が困難であるという問題点を有する。そこで目的実現のため今年度は、Adベクター複製時にのみVA-RNAを発現する293細胞を作成し、VA-RNAをトランスに補うことで、VA-RNA欠損Adベクターの作製を試みた。しかし、VA-RNAは自然免疫を誘導すること、また細胞周期に影響を与えることから、恒常的にVA-RNAを発現する細胞株の作製は困難と考え、薬物の添加により必要時にVA-RNAの発現を誘導可能な細胞株を作製した。その結果、Doxycyclineの添加によってVA-RNAの発現が誘導される293細胞を用いて適切な時期にVA-RNA発現を誘導することでVA-RNA欠損Adベクターの産生・増幅に成功した。また、VA-RNA欠損Adベクターは従来型Adベクターと同程度の遺伝子導入・発現活性を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、自然免疫応答を克服可能なAdベクターの開発およびAdがコードする小分子RNAであるVA-RNAによる自然免疫誘導メカニズムの解明を目的としている。その目的実現のため、平成23年度はまず、VA-RNA欠損非増殖型Adベクターの大量調製法の開発を行った。その結果、VA-RNA欠損Adベクターの産生・増幅に成功した。したがって、当初の目的は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、Doxycyclineの添加によってVA-RNAの発現が誘導される293細胞を用いて適切な時期にVA-RNA発現を誘導することでVA-RNA欠損Adベクターの産生・増幅に成功した。そこで、作成したVA-RNA欠損Adベクターを樹状細胞やマクロファージといった自然免疫担当細胞などに作用後、サイトカイン産生量を測定することによりVA-RNA欠損Adベクターの自然免疫回避能の検討を行う。また、in vitroでの検討だけでなくマウス生体内に投与した際に生じるサイトカイン産生量についても検討を行い、VA-RNA欠損非増殖型Adベクターが自然免疫応答を回避可能かどうかについて検討する。 さらに、近年、血漿中に存在するエキソソーム(exosome)に小分子RNAであるmiRNAが内包されており、細胞がエキソソームを介して転移や細胞増殖に関わる情報をやり取りしている可能性が指摘されている。したがって、Adベクターを作用した細胞からもAdがコードする小分子RNAであるVA-RNAが内包されたエキソソームが細胞外に分泌されることにより、さらに免疫応答を増強している可能性が示唆される。そこで本研究では、まずエキソソームによってVA-RNAが細胞外に放出されているかどうかについて検討する。エキソソームによってVA-RNAが細胞外に放出され、免疫応答を増強していることが明らかになった場合、VA-RNA欠損Adベクターと従来型Adベクターを作用させた細胞由来のエキソソームを比較し、細胞外に放出されたVA-RNAが自然免疫活性化に与える影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は、遺伝子工学、分子生物学の手法を駆使して実験を遂行するために、それらに関する実験試薬・消耗品は必要不可欠である。また、Adベクター調製には多量の細胞培養関連試薬が必要となる。さらに、作成したAdベクターをマウスに投与することによって機能評価を行うため、実験動物の費用も計上する。
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