本研究は、がんの重要な予後決定因子である「転移」の分子メカニズムの解明と転移診断・抑制法の開発に資する転移関連蛋白質の同定を目的とする。対象としては、がんの中でも死亡率が上昇し続けている大腸がんに着目し、転移性の異なる細胞間で発現変動している蛋白質の中から転移に関連する分子を見出し、それらを評価することで目的の達成を図る。 本観点から研究代表者は昨年度までに、転移関連蛋白質を見いだすべく、同一患者由来の大腸がん原発巣由来細胞株(SW480)と転移巣由来細胞株(SW620)を用い、SW620で発現変動している候補蛋白質を探索した結果、1.5倍以上発現変動していた8種類の蛋白質を同定した。 そこで本年度は、同定された候補の中から転移に関連する蛋白質を見いだすため、特に変動率の大きかったRho GDP-dissociation inhibitor(RhoGDI)、Peroxiredoxin-6(PRDX6)、14-3-3 zata/delta(14-3-3)に対する抗体を用い、数多くの大腸がん組織が搭載された組織アレイを免疫染色し、各候補の発現分布と各症例が有する臨床情報との相関を解析した。その結果、RhoGDIの発現割合は、大腸壁の深達度の進行とリンパ節転移の発生に伴って有意に上昇することが示された。一方で、その他の候補蛋白質については、がん組織で発現していたものの、臨床情報との相関は認められなかった。そこで、RhoGDIの遠隔転移との関連を検証するため、代表的な転移臓器である肝臓に高転移性の細胞株を独自に樹立し、RhoGDIの蛋白質発現量を比較した。その結果、RhoGDIは、肝転移性が高い細胞株ほど、発現量が高くなる傾向が認められた。 今後、遺伝子工学的な手法を用いて、機能の詳細を検証することで、転移機構に基づいた診断薬の開発や転移抑制薬の可能性を検証していく予定である。
|