研究課題/領域番号 |
23790218
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
徳永 暁憲 大分大学, 全学研究推進機構, 助教 (70549451)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経発生 / 脳・神経 / 発生工学 / RNA splicing / NMD |
研究概要 |
中枢神経系を構成する様々な細胞(ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)は、増殖能及び多分化能を有する神経幹細胞より生み出される。そのため神経幹細胞からの分化メカニズムの解明は生物学的研究意義に加え神経疾患に対する再生医療という観点からも重要な課題である。近年、転写因子群による神経分化制御機構に加え、alternative splicingによるRNA修飾が細胞分化制御に関わる事が示唆されている。しかしRNA修飾機構に関する研究は未だ立ち後れているのが現状であり、その機構解明が望まれる。 そこでalternative splicingにより制御されるナンセンス変異依存mRNA分解機構(NMD)に注目し、NMDによる発現調節は神経分化にどのような影響を及ぼしているのか?またその過程でNMD依存的に抑制される標的RNAの解明を目的に研究を行った。昨年度には樹立した相同組換え体ES細胞(BL/6)を用いてNMDの構成因子UPF1の コンディショナルKOマウスの作製を行った。また発生過程でのRNA splicing制御に関わる知見が非常に乏しい現状から、神経分化依存的alternative splicing switchの生体内での可視化を試みた。神経分化に伴いsplicing isoformが変化する遺伝子に注目し、各isoform特異的に蛍光蛋白質を発現するPTBレポーターベクターを構築した。本年においてUPF1 KOマウスの解析、および本レポーターを用いたKnock-inマウスの作製を行い、胎生期の中枢神経系(大脳皮質)に見られるダイナミックなsplicing patternの変化を可視化する事を計画している。今後、これらの研究によりRNA結合蛋白質によるalternative splicing制御と神経分化との相関について新たな知見が得られる事が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画以上に順調に研究は進展していたが、平成24年1月1日より大分大学のテニュアトラック教員として採用され、現在は新たな環境にて研究を進めている。異動に伴い一時的に研究を遂行出来ない期間があり、昨年度で計画していた「マイクロアレイ解析によるNMD標的mRNAの同定」はH24年度以降で計画している。これまでに「UPF1コンディショナルノックアウトマウスの作製」、「生体内でのPTBによるalternative splicing制御の可視化及びその解析」といった計画を完了しており、本年度以降で神経系特異的なCreマウスとの交配によりNMDが神経発生にどのように関わっているかを遺伝子改変マウスを用いて明らかとしてゆく予定である。 現在は大分大学での研究体制の確立を目指し、胚操作を含めた発生工学手法や遺伝子改変マウスの作出法の環境作りにも取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度で作製したUPF1コンディショナルノックアウトマウス、PTBレポーターノックインマウスを用いてRNA editingと神経分化との相関性に関する解析を引き続き行う。得られた結果を取りまとめその成果は学術論文や国内外の学会発表を通じて発信する。 またマイクロアレイ法により標的RNAの網羅的解析を進め、同定された候補遺伝子の機能解析を行う。現在考えられているNMDのモデルでは、まずsplicingに伴ってExon-Exonの境界に蛋白質複合体(EJC:Exon junction complex)が結合し、次にEJCを介してNMD関連因子(UPF1,SMG-1等)がmRNA上へと集結する。その後の翻訳段階でリボソームがナンセンス変異で停止するとEJC-NMD関連因子により変異mRNAが選択的に分解される事が知られる。神経発生過程で発現しているsplicing調節因子によってsplicingを受ける標的mRNAの同定及びその機能解析を進める事で、これまであまり知られていなかったNMD依存的な発現制御機構や、それに伴う分化調節機構の解明に繋がる事が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
In vitroにおいてUPF1欠損細胞を用いてマイクロアレイ解析を行う。得られた候補因子の神経細胞への導入実験を行ない増殖能や分化能に関して検証する。細胞培養する際にはシャーレなどのプラスチック消耗品や培地血清類の消費が予想され、細胞を分化誘導させる際にはbFGF,wntなどの高価な液性因子が必要となる。 In vivoでの解析として作製したUPF1 cKOマウスEmbryo及び子宮内電気穿孔法によりトランスジーンを導入したEmbryoの脳組織を免疫組織染色法により解析する。特にニューロンの分化度やサブタイプを各種抗体により検討する。当該年度において培養細胞は必要な量のみ分化誘導するため、前年度に比べ培養に必要な経費は少なく抑えられると予想されるが、当該年度において細胞培養や分子生物学実験に用いる消耗品費以外にマウスの管理/維持費(マウスケージの購入費など)、また大分大学での研究室のセットアップに新たに必要となる最低限の備品費等に充てる事を計画している。
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