本研究では、3-D培養における上皮組織化の利点を生かし、一過的・動的な浸潤性形質の獲得とその終息に着目し、このような個々の細胞群を可視化・標識化する手法と分子細胞生物学的手法を用いることで、組織形成の時空間的制御とその分子基盤を明らかにすることを主たる目的とした。本年度は、レンチウイルスベクターを用いてvimentinプロモーターによりGFPを発現するマウス乳腺上皮細胞を樹立し、この細胞の上皮形態形成過程における浸潤性(間葉系)分化転換細胞のGFPによる可視化を試みたが、vimentinプロモーターでは分化転換を反映できなかった。そこで乳腺幹細胞に発現すると考えられたMet受容体の抗体を用いたフローサイトメーターによる細胞分画を行い、ごく1部の細胞がMetを発現していることが分かった。転移性悪性黒色腫においてもMetの発現の有無によってがん細胞集団が分けられ、Met陰性細胞からMet陽性細胞が生じること、Met陽性細胞はコロニー形成能が高いことや、代謝経路が異なることが示唆された。今後、Metの発現の有無によって分けられるがん細胞集団の形質の違いを、マイクロアレイ等によって明らかにする計画である。 研究期間全体を通じ以下の成果を得た。 1) 乳腺上皮細胞のin vitro組織化において4倍体細胞の形成とその後の動態・増殖能を解析し、細胞増殖は核の倍数性に影響されないという結果を得た。がん化につながる染色体の異数性や不安定性につながる4倍体細胞の出現とその動態に関する知見を得た。2) Metの発現の有無によって、乳腺上皮細胞や悪性黒色腫の分化転換を検出できる示唆を得た。分化転換の動態やその分子機構を明らかにする基盤を得た。
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