研究課題/領域番号 |
23790235
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
上田 祐司 獨協医科大学, 医学部, 助教 (10364556)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 移植免疫 / 樹状細胞 / 肝臓 / ラット |
研究概要 |
まずドナーII型MHC(MHC-II)特異的抗体を得て、それを大量精製することに成功した。次にそれらをレシピエントラット(Lewis)に腹腔投与し、翌日ドナーラット(ACI)の肝臓を移植すると、顕著に移植肝の平均生存日数(MST)の延長が認められた。そこでこの機序を明らかにすべく、移植後のレシピエント免疫臓器、ドナー肝臓を経時的に解析したところ、抗ドナーMHC-II抗体投与群では移植肝由来のドナー樹状細胞(DC)のレシピエントリンパ臓器への血行性遊走が見られなかった。ドナーDCは遊走先でレシピエントCD8T細胞に拒絶反応の開始を誘導するので、本系ではドナーDC遊走阻害に伴って、レシピエントCD8T細胞応答も顕著に抑制していることが明らかとなった。また興味深いことに、最も拒絶反応を強く誘導すると考えられる、リンパ行性に遊走するドナーDC(本研究の一部として論文投稿、受理済み)の遊走も本系では抑制されていることが明らかとなった。次に上記の効果を保持する必要最低量の抗体量を検討したところ、1mg以上になると投与抗体による移植肝への非特異的な障害が起こるのに対し、300μgでは副作用を回避しながら、上記の効果を十分に発揮できることを見いだした。この抗体投与量は破格に低量であり、本研究で見いだされた成果は、移植免疫において新規に抗体創薬を試みる上での非常に有用な戦略となると期待される。ここまでの結果は必要十分にまとまっており、その成果を今夏に投稿する。 次に上記の系(腹腔投与系)を発展させて、摘出肝を脱血・保存する液の中で抗体と肝臓を反応させる系(保存液反応系)を検討した。上で見いだした抗体300μgを肝臓内に閉じ込めて4℃で1時間反応させた後、内液を洗い流して、移植したところ、確かな生存日数の延長が認められた。現在、本発展系における抗体反応条件の最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は臨床肝移植に適応しうる新規免疫抑制法の開発である。それを達成するためのステップを確実に歩んできていると考える。すなわち、まず特異的な免疫抑制法を、ラットを用いた実験動物モデルにて明らかにすることができた。申請者はこれまでの研究背景から移植臓器のDCが拒絶反応の司令塔となると考え、ドナーDCに選択的に反応し、かつ除去能を持つ抗体としてドナーMHC-II抗体の移植前投与を考案した。本研究では1)この抗体を大量精製し、2)肝移植拒絶モデルの系に前処置することで、顕著なMST延長効果を実現した。3)この生存延長効果の機序は本計画立案時に予想していたとおりであり、その一連の過程を必要十分に明示することができた。4)また、臨床応用を考える上では必須となる投与分子による副作用や、投与量であるが、かなりの低量で効果を示すために副作用は認められず、非常に有望であると期待できる。 最終年となる今後は、次のステップとして臨床適応化を視野に入れた投与法やその条件を検討する計画であるが、現時点では概ね順調に研究が進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる今後は、上記概要で述べた保存液反応系における抗体反応条件の最適化を集中的に行ってゆく。具体的には本系では抗体と抗原(ドナーDC)間の反応を、いかに低量、短時間で十分な効果を示せるかを突き詰めてゆくことである。投与量は一日前に投与する腹腔投与系において300μgであることから、肝臓内に閉じ込める本系ではもっと少ない量を極量として見いすことができると予想される。 次に最終段階として、投与抗体をこれまでのドナーMHC-II特異的抗体からドナー、レシピエントの両方に反応する抗体に切り替えて同様の検討を行う。これは臨床肝移植を想定した系であり、あえてMHC-II(ヒトHLA-DR)の型に依存しない抗体を用いて同様に副作用の無い免疫抑制効果が得られたならば、本法の汎用性は飛躍的に増し、臨床肝移植への適応化が大いに期待できることとなる。 尚、この系に用いる抗体は既に探索・入手済みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度と同様に、研究費の大部分は移植用のラット、免疫組織解析用試薬、フローサイトメトリー試薬の物品費に充てる。上記概要に記載のとおり、本研究の一部はすでに投稿・受理済みで、かつ今夏にも投稿予定であるので、それらの出版の際の印刷料や、これらの成果を学会で発表する際の費用に充てることも計画している。
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