研究概要 |
網膜視細胞は、杆体と錐体の2種類の細胞から成っており、杆体細胞は暗所において光を検知する感度が高く、錐体細胞は明所において光と色彩を識別し、人の視覚は主に錐体細胞が担っている。錐体細胞は、胎生期初期に発生し、また杆体細胞に比べ錐体細胞の数は少ないため、その発生と維持のメカニズムはほとんど分かっていない。そこで、胎生期の網膜細胞で発現が強く、まだその機能が知られていない遺伝子に注目し、ノックアウト(KO)マウスを用いて生体レベルでその機能解析を行い、錐体細胞の発生・分化・維持の分子機構を解明することを目的とした。 転写因子Raxは、胎生期の網膜前駆細胞に強く発現していることから、申請者はRax遺伝子のKOマウスを作製した。また、RaxのKOマウスは目が形成されないことから、視細胞特異的にコンディショナルノックアウト(CKO)マウスを作製し、Creの発現を時空間的に調節可能なCreERT2システムを用いた。胎生14.5日齢でRax遺伝子を欠損させた場合、視細胞の運命決定に重要である転写因子Otx2の発現が軟妙することを示した。RaxがOtx2の上流てで働き、視細胞の発生に重要であることを、分子生物学的および遺伝子工学的な手法を用いて解明した。まず、Otx2の視細胞発現調整領域の検索のためトランスジェニックマウスを い、約500bpの領域を同定した。この500bpの領域は転写因子Raxによって活性化されOtx2の発現を調節していること、また網膜前駆細胞が増殖している間は、この500bpの領域はNotch-HesシグナルによってRaxの活性が抑制されていることもまた解明した。以上から、転写因子Rax遺伝子が錐体細胞の発生時期である胎生期に重要である事を発見し、その分子制御メカニズムを解明し報告した(Muranishi et al. , J Neurosci., 2011, Muranishi et al., Dev Growth Differ.,_2012)。
|