研究課題
本年度、(プロ)レニン受容体を用いた脳・心血管・腎臓障害に対する新しい予防・治療戦略の基盤を構築するため、以下の研究を行った。動物疾患モデルを用いた検討では、脱水や高塩食負荷環境下での腎臓における(プロ)レニン受容体の遺伝子発現、タンパク質発現を腎臓の各セグメントで検討した。加えて、(プロ)レニン受容体floxマウスに誘導性Creを発現するマウスを掛け合わせ、(プロ)レニン受容体組織特異的ノックアウトモデルを作製した。本モデルは多発性嚢胞腎様の病理所見を示した。現在、RT-PCR、Western blot、免疫組織染色により、本病態に関連するmRNA及びタンパク質の検討を行っている。全長、可溶性、膜貫通型のそれぞれの機能を解析するため、マウス(プロ)レニン受容体flox/flox ES細胞を作製した。現在、このES細胞に導入するための(プロ)レニン受容体の全長、可溶性、幕貫通型のそれぞれの遺伝子を作製している。日本腎臓学会、アメリカ腎臓学会にてヒト(プロ)レニン受容体可溶性成分の血液中・尿中測定法について発表した。その中で、EDTA採血管やヘパリン採血管等の採血条件や冷蔵、冷凍等の保存方法により(プロ)レニン受容体可溶性成分の濃度が異なることを報告した。本結果は、(プロ)レニン受容体測定に重大な影響を与えるため、まず健常者の血液・尿を用い(プロ)レニン受容体測定法のバリデーションを取り各種採血条件における(プロ)レニン受容体可溶性成分の安定性を確認することとした。現在、健常者の血液・尿の採取を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、(プロ)レニン受容体の脳・心血管・腎臓障害への関与とその作用機序を動物実験モデル及びヒトを対象として検証し、その病態生理学的役割を解明するため、(1)動物疾患モデルを用いたインターベンション実験、(2)可溶性(プロ)レニン受容体の機能解析、(3)酵素結合免疫吸着検定法を用いた血中・尿中(プロ)レニン受容体濃度の測定の3テーマを行うことを計画している。(1)、(2)、(3)のそれぞれのテーマ共に概ね当初の計画通り実験が進展している。加えて、当初の研究計画では計画されていなかったが、(プロ)レニン受容体組織特異的ノックアウトモデルが多発性嚢胞腎様の病理所見を呈することを発見し、本検討も順調に推移している。従って、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
本研究計画は順調に推移しており、次年度もこのまま研究計画通りに本研究課題を遂行する。動物疾患モデルを用いたインターベンション実験では、特にレニン・アンジオテンシン系の阻害薬の効果を検討する。可溶性(プロ)レニン受容体の機能解析では、本年度作製したマウスPRRflox/flox ES細胞に(プロ)レニン受容体の全長、可溶性、幕貫通型のそれぞれを導入した後、アデノウィルス-Creで(プロ)レニン受容体をノックアウトすることにより、可溶性(プロ)レニン受容体+/+-全長(プロ)レニン受容体-/- ES細胞、膜貫通型(プロ)レニン受容体+/+-全長(プロ)レニン受容体-/- ES細胞、酵素切断配列変異全長(プロ)レニン受容体+/+-全長(プロ)レニン受容体-/- ES細胞を作製する。そして、それぞれの細胞の表現型の観察やマイクロアレイを用いた遺伝子発現の変化を検討する。酵素結合免疫吸着検定法を用いた血中・尿中(プロ)レニン受容体濃度の測定では、バリデーションが終了次第、可溶性(プロ)レニン受容体が腎臓・心血管障害に対する新たな診断マーカーとなるかを検証するため、大迫研究の保存血液(2000名)、尿検体(500名)の可溶性(プロ)レニン受容体濃度を定量し、表現型との関連解析を行う。加えて、本年度、(プロ)レニン受容体組織特異的ノックアウトモデルが多発性嚢胞腎様の病理所見を呈することを見出したため、動物実験として本モデルを用いた検討も新たに開始する。
本年度、海外共同研究者のG Nguyenも独自に(プロ)レニン受容体可溶性成分のELISAを作製した。よって、我々の測定系とのバリデーションを取り(プロ)レニン受容体測定系の再現性を検討するため、彼女らの測定キットを購入することを計画している。また、動物実験、細胞実験で使用する実験動物(ラット・マウス)や試薬などの購入費としても使用する。試薬としては、mRNAの発現(定量的RT-PCR法、マイクロアレイ)やタンパク質発現(ウエスタンブロット)を検討するための試薬、及び各種抗体、制限酵素、プライマー等分子生物学的試薬、チューブ等のプラスチック製品及び一般試薬が必要となる。加えて、研究成果を逐次学会・論文等で発表・公表するため、本研究費を学会発表のための旅費、論文発表ための英語論文校正費、論文投稿費、印刷製本費として使用する。
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