研究課題/領域番号 |
23790244
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
山口 聡一郎 新潟大学, 医歯学系, 助教 (50596864)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血管条 / NBCe1-B / 内耳蝸牛 |
研究概要 |
内耳蝸牛内リンパ液のpH環境を整える機構を解明するために、内リンパ液に接する上皮組織である血管条からmRNAを抽出し、RT-PCRによる実験を行い、細胞や組織におけるpH環境に影響を与えるH+やHCO3-の輸送体の発現を調べた。それにより、起電性Na+-HCO3-共輸送体の一つであるNBCe1-BのmRNAの血管条における発現が明らかとなった。このNBCe1-Bは、NBCe1のスプライシングバリアントの一つであり、HCO3-を基底側膜側から頂上膜側へと輸送する多くの上皮組織に発現し、Na+とHCO3-を1:2の比率で細胞内に輸送すると考えられている。NBCe1の別のスプライシングバリアントであるNBCe1-Aの発現は認められなかった。また、H+とCa2+を逆輸送するPlasma membrane Ca2+ ATPase(PMCA1-4)のうち、PMCA1b、2b、3a、4bの発現が明らかとなった。これらの輸送体が血管条のどこに発現するかを形態学的に調べると共に、機能的に発現しているかどうかを生理学的に調べていく必要がある。また、機能的実験のアプローチの一つとして、辺縁細胞に機能発現する約27 pSのシングルチャネルコンダクタンスを示す非選択的陽イオンチャネルが細胞内のpHの上昇によって、不活性化されるという報告があったため、辺縁細胞の細胞内pHの変動を間接的に測定する手段として、パッチクランプ法を用いて、このチャネルコンダクタンスの測定を行った。すると、血管条の辺縁細胞の頂上側膜からインサイドアウト法にて、27 pSのシングルチャネルコンダクタンスは測定された。しかし、細胞内側の溶液のpHを6.6から8.2まで変化させた場合に、チャネル活性に大きな変化は認められなかった。よって、このチャネルの活性を指標に辺縁細胞の細胞内pHを推測することは難しいことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
機能的実験として、液体H+交換体を用いたpH電極を作成して、内リンパ液や血管条のpHを測定する予定であったが、双筒のガラス電極を用いた場合、pH電極の反応性と安定性が非常に悪かった。そのため、内リンパ液や血管条のpH測定について、信頼できるデータを取得するに至っていない。その試行錯誤のためにかなりの時間を損失した。また、別の機能的実験方法として、チャネル活性による間接的な辺縁細胞内pHの評価方法を立ち上げることを試みた。しかし、報告とは異なり、対象チャネルが細胞内pHによって機能的に影響されないことが明らかとなったため、試みが頓挫してしまった。しかし、その代わりに分子生物学的アプローチから始めることにし、前述のように、NBCe1-Bの発現が明らかになるなどの成果は得られており、今後の発展の足がかりとなることが期待される。よって、やや遅れていると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
機能的実験として、双筒のガラス電極に液体H+交換体を用いたpH電極を作成して、内リンパ液や血管条のpHを測定する予定であったが、うまくいかなかったため、今後はシングルのガラス管を用いた電極を作成し、内リンパ液のpHの測定を試みる。また、発現が明らかとなったNBCe1-BやPMCAについて、組織学的に血管条のどこに発現しているのかを調べる。さらにNBCe1-Bの重要な機能調節タンパク質についての発現も同時に調べる。発現している細胞が明らかとなれば、その細胞を分離し、機能的にそれらの輸送体が発現しているかどうかを調べる。蛍光色素を用いた細胞内pHの測定やパッチクランプ法を用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記研究を行うための、実験動物や、試薬などの消耗品の購入に使用する。成果発表や情報収集のための旅費としても一部、使用する。
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