強力な細胞毒性を示す海綿由来のチャネル形成ペプチド・ポリセオナミドB(pTB)の作用機序解明に向け、人工脂質平面膜を用いてpTBチャネルのイオン透過特性の詳細な解析を行った。pTBはβへリックスという特異な分子構造を持つが、pTB以外唯一のβへリックス型チャネルには抗生物質として知られているグラミシジンがある。グラミシジンA(gA)チャネルのイオン透過機構に関する知見は多く蓄積しており、これと比較することでpTBチャネル特有のイオン透過特性を明らかにしようと試みた。まず、イオン透過機構を考察する際の基本的情報であるチャネル内イオン数を検討した。イオン透過速度のイオン濃度依存性、および様々なモル比で2種イオンを混合した各溶液条件でのイオン選択性の変化を単一チャネル電流から解析した結果、pTBチャネル内に同時に複数のイオンは入らないことがわかった。gAチャネルはpTBチャネルより長さが短いが、同時に2つのイオンが入り得るので、両チャネル内イオン透過の背景に存在するメカニズムは異なる可能性が考えられた。そこで、離散状態マルコフモデルを用いて実験データを解析したところ、イオンがpTBチャネル内を透過する際にも、チャネル内の2つのイオン結合部位を介していることが示唆された。なぜpTBではこれら2つの結合部位にイオンが同時に結合することが無いのか、今後さらなる検討が必要である。また、pTBチャネルの電位依存的なゲート開閉特性についても詳細に解析し、開状態の寿命に電位依存性があることを明らかにした。さらに、開閉遷移速度がgAと比較して著しく速いことがわかり、pTBチャネルのゲート開閉には、gAチャネルのようなペプチドの会合・解離ではなく、ペプチド内の構造変化が関与していると推定された。この様なゲート開閉機構の例は他に無く、今後具体的な分子機構を検討していきたい。
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