研究課題/領域番号 |
23790254
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10366247)
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キーワード | 循環生理学 |
研究概要 |
本研究では、近年急速に発展している分子イメージング技術を駆使し、心臓の心筋線維の最小ユニットであるサルコメアの収縮動態をin vivoで高い時間・空間分解能でライブイメージングできる技術を開発することで、生体内の心筋収縮・弛緩をナノレベルで可視化し、心筋の収縮・弛緩の分子メカニズムの解明をねらう。 生命科学・医学研究において生体内の様々な制御メカニズムを解明するためには、in vitro のみならずin vivoでの分子メカニズムの解明が待たれるが、心筋研究においては、心臓自体が常に拍動し続けている臓器であるため、その技術的な難しさからin vivo研究はほとんど行われていない。 心筋の収縮・弛緩のメカニズムや心不全の病態メカニズムを明らかにするためには、特定の分子の動きを動物個体内で観察する必要がある。この考えに基づき、明るい蛍光を長時間発する量子ドットや蛍光色素、遺伝子組み換えウィルスベクターを用いて蛍光タンパク質を発現させることにより心筋サルコメアのイメージング(Z線イメージング)を高時間(~2 ms)・空間(~5 nm)分解能で行う。 平成23年度では、in-vitroからin-vivoイメージングへ研究を進めていく上で、非常に重要なex-vivoイメージング装置を行った。 当該年度は、ex-vivoイメージング装置を実際に使用し、擬似生体内での心筋サルコメアの収縮・弛緩動態をイメージング可能となった。また一般的に、心臓の心筋収縮自体は、いわゆる心臓のペースメーカー(洞結節)からの心拍により活動電位が生じ、その伝搬によりCa2+イオン濃度が上昇し心筋細胞が収縮するといわれている。ex-vivoイメージング装置を用いることにより、その収縮様式の詳細、また、Ca2+イオン濃度変化のない状態での心筋細胞の動態についても検討できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ex vivo心筋ナノイメージング技術の開発: これまでに得られたナノイメージング技術を小動物in vivoに応用する前段階として、ラット摘出心を用いてランゲンドルフ還流下に顕微鏡観察ができるex-vivoイメージング装置を構築した。心筋のZ線/Z線付近に存在するタンパク質(αアクチニン)と蛍光タンパク質(EGFP)を融合させた遺伝子組換えウィルスベクターを用いて蛍光タンパク質を発現させることにより、より鮮明に心筋サルコメアを描出できると考えている。遺伝子組換えウィルスベクターを用いてラット心臓にαアクチニン-EGFPの発現が可能であることが確認できており、今後応用していく予定である。 ex-vivo イメージング装置を用いた心筋細胞動態の観察: ex-vivoイメージング装置を使用し、生体内という条件にかなり近い形での心筋サルコメアの収縮・弛緩動態をイメージング可能となった。また一般的に、心臓の心筋収縮自体は、いわゆる心臓の洞房結節からの心拍により活動電位が生じ、心臓全体に伝搬する。その伝搬により心筋細胞内のCaイオン濃度が急激に上昇し、心筋細胞が収縮するといわれている。ex-vivoイメージング装置を用いることにより、その収縮様式について、詳細に観察することが可能となった。また、除膜心筋収縮系サルコメアは,Ca濃度一定の条件下で自発的に振動し(SPOC:Spontaneous Oscillatory Contraction)、その振動数は動物種に固有の心拍数と相関することが報告されている。心筋細胞では生理的な電気刺激頻度においてSPOCに類似した鋸波の振動波形が出現することが判明している。細胞レベルで確認されている心筋サルコメアの自励振動(SPOC)が、臓器レベルで確認されるかどうか、ex-vivoイメージング装置を用いて心筋細胞動態を詳細に観察できる系で検討する。
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今後の研究の推進方策 |
ex-vivoイメージング装置の改良・使途拡大 in-vivoイメージングすなわち生きた個体では、コントロール困難なパラメータ(血中Ca2+濃度、ペーシングによる心拍数変調etc...)があるほか、蛍光物質などは生体内に投与しては悪影響を来しうるため、これらの系を用いた研究は困難を極める。この点に関し、擬似生体内条件ではあるが、ex-vivoイメージング装置を用いて研究することで、先述のあらゆる実験系を用いた新たな収縮・弛緩のメカニズム解析が可能になると考えられる。また、in-vivoイメージングでは可能な限り顕微鏡観察困難となりうる因子(呼吸・血液など)を省いて観察できるため、心筋サルコメアに特化して観察することが可能である。よって、心筋の収縮・弛緩のメカニズム解明において、必要かつ重要な装置系と考え、改良および使途拡大を図りたいと考えている。 ex-vivoおよびin-vivoイメージング装置を用いて、生体内の心臓収縮期・拡張期におけるリアルタイムサルコメア動態の解明、心筋サルコメアの収縮・弛緩以外の詳細な動態の解明およびFrank-Starlingの心臓法則と筋長効果の相互関係の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
生体内の心臓収縮期・拡張期におけるサルコメア動態の解明:in-vivoおよびex-vivoイメージング装置を用いて、心臓のリアルタイムサルコメアイメージングと心電図情報などを同一個体で融合して行うことにより、心筋細胞のナノレベルの収縮・弛緩動態を明らかにする。 ex-vivo イメージング装置を用いた心筋細胞動態の観察:ex-vivoイメージング装置を用いることにより、心筋の収縮様式について、詳細に観察することが可能となった。除膜心筋収縮系サルコメアは,Ca濃度一定の条件下で自発的に振動し(SPOC)、その振動数は動物種に固有の心拍数と相関することが報告されている。細胞レベルで確認されている心筋サルコメアの自励振動(SPOC)が、臓器レベルで確認されるかどうか、ex-vivoイメージング装置を用いて検討する。今後、細胞内のCa濃度とZ線を同時にイメージングし,Ca濃度変化に依存しない心筋細胞動態、サルコメア長変化が生じるか否かを調べ、心筋収縮における自励振動(SPOC)の存在・意義を明らかにする。 Frank-Starling機構(in vivo)と筋長効果(in vitro):心臓の1回拍出量が心室拡張終期容積に比例するというFrank-Starlingの心臓法則は、心筋線維レベルにおいては心筋線維の発生張力が筋長とともに増大するという筋長効果に基づいている。生体内のFrank-Starling機構と筋長効果の直接的な関係は未だ不明である。In vivoでナノレベルのサルコメア情報と血行動態情報(圧-容積関係)を同一個体で組み合わせ、さらに様々な条件下(容量負荷、アドレナリン負荷、他薬剤投与下など)で解析を行うことにより、Frank-Starlingの心臓法則と筋長効果の相互関係を解明し、ナノレベルから個体レベルを通してFrank-Starlingの心臓法則の解明に迫る。
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