研究概要 |
近年、体液浸透圧制御におけるグリア細胞の働きが注目されている。浸透圧受容器ではグリア細胞がニューロンの活動を制御することがわかってきた。またグリア細胞それ自身においても、脳内の浸透圧変化により、様々なオスモライト輸送担体の発現が制御されている。本研究では、浸透圧調節におけるグリア細胞の役割と、それを担う分子メカニズムを明らかにするべく、線虫C. elegansのイノシトール輸送担体(HMIT)に着目して解析を行った。 線虫においてHMITをコードする3つの遺伝子(hmit-1.1, hmit-1.2, hmit-1.3)について発現解析および欠損変異体作製を行った。その結果、hmit-1.2およびhmit-1.3が線虫のグリア細胞に発現すること、hmit-1.2のみが高浸透圧条件下において著明な発現誘導を示すことを明らかにした。このグリア細胞は、まさに線虫の浸透圧受容ニューロン(ASHニューロン)を覆うグリア(amphid sheath glia)であった。また、各欠損変異体の表現型解析から、hmit-1.2ノックアウト線虫が体液の高浸透圧負荷に脆弱であることを見出した。ヒトのグリア由来培養細胞においてもHMITが高浸透圧ストレスにより誘導された。以上の結果から、線虫において、グリア細胞のイノシトール輸送担体(hmit-1.2)が浸透圧に応答して発現誘導されること、個体としての浸透圧制御に重要な役割を果たすことが明らかとなった。また、高浸透圧ストレスによるグリア細胞でのイノシトール輸送担体の発現誘導は種間で普遍的なメカニズムであると考えられた。
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