近位尿細管細胞内エンドソームに存在するClC-5(Cl-チャネル)の異常はDent病の原因とされている.ClC-5はH+とCl-の対向輸送を行う起電性の輸送体であることが分かっている.分子レベルでの機能解析は進む一方で組織レベルでの機能解析は進んでいない.従って,ClC-5の異常により起こることが予想される細胞内のpH変化やCl濃度変化がどのような現象を引き起こすのか組織レベルで検討することを目的とした. まず,ウシ蛙を用いてガラス管微小電極法により近位尿細管細胞内外のpHを測定した.Cl輸送が尿細管細胞内外のpHに与える影響を検討するため,チャネル阻害剤であるNPPBを用いた.同薬剤負荷により,細胞内pHは初期に上昇し後期に低下した.一方,管腔内液pHは7.4から7.8まで変化し,その後7.7で安定化した.これら一連の変化は,陰イオン輸送(Cl-及びHCO3-)が阻害されたために細胞内が一旦アルカリ性に傾きナトリウム水素イオン交換体が抑制された結果尿の酸性化が抑制され,同時に著名な利尿が引き起こされたと考えられた. 次に遠位尿細管管腔内液のpH変化を調べた.NPPBの投与によりpHはアルカリ性へと変化し,管腔内電位は10mVから15mV程度まで上昇した.これに伴い,管腔内液のCa濃度は0.8mMから0.2mM程度低下した.一方,vATPase阻害剤であるバフィロマイシンを投与すると,pHはアルカリ性へと変化しCaも同様に低下するが管腔内電位は変化しないかむしろ低下した.以上より,管腔内液Ca濃度は管腔内電位と連動した傍細胞輸送ではなく,pHの変化に伴った経細胞輸送により調節されていると考えられる.以上より,陰イオンの濃度変化が細胞内外のpHに影響を及ぼすこと,細胞内のpH変化は容易にCa濃度を変化させCaの沈着ひいては尿管結石を引き起こし得ることが示された.
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