本研究はカルシウムオシレーション非依存的な破骨細胞分化シグナルの中心として働く分子を探索・同定することを目標とし、カルシウムオシレーション依存的破骨細胞分化メカニズムが阻害されているイノシトール3リン酸受容体ノックアウトマウス(IP3RKOマウス)を用いて破骨細胞分化誘導因子のスクリーニングを行なった。 本研究期間内では、骨芽細胞培養株であるST2細胞の膜画分とIP3RKO細胞を用いた実験結果から、カルシウムオシレーション非依存的な破骨細胞分化を誘導する分子は骨芽細胞の膜画分に存在すること、カルシウムオシレーション非依存的な破骨細胞分化シグナルが活性化するためには骨芽細胞と破骨細胞が直接接触することが重要であることが明らかとなった。 また、骨芽細胞からのシグナルを受け、破骨細胞分化を促進する破骨細胞内因子としてCot kinaseに注目し、その役割を調べた。申請者はCot kinaseノックアウトマウスの骨形態計測を行なった結果、Cot kinaseが生体内における破骨細胞分化に関与していることを明らかにした。さらに、破骨細胞内のCot kinaseが骨芽細胞との接触により活性化され、破骨細胞分化のマスター分子であるNFATc1を直接リン酸化すること、そのリン酸化によってNFATc1タンパク質の安定性が増すことを明らかにした(Kuroda Y. et al. Mol Cell Biol. 2012 Jul;32(14):2954-63.)。 これらの結果はCot kinaseがカルシウム非依存的にNFATc1を活性化する分子機構の一端を明らかにしたものであり、新たなNFATc1活性制御機構を発見した、という点で非常に興味深い知見といえる。また、生体内における破骨細胞分化制御機構の新たな分子機構を明らかにしたことは様々な骨疾患を正しく理解する上で重要な意義があると言える。
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