ウミヤツメのゲノム配列データベースをもとにカワヤツメ細胞質レチノール結合タンパク質(CRBP)のcDNAクローニングを行い、さまざまな脊椎動物のCRBP IおよびIIのアミノ酸配列と比較して系統樹を作成した。その結果CRBP IとCRBP IIはそれぞれ単系統群を形成し、カワヤツメCRBPは両単系統群の中間に位置することが明らかとなった。カワヤツメCRBPにHisタグを付加して大腸菌で大量発現し精製した。得られたタンパク質のレチノールおよびレチナールへの結合を調べたところ、カワヤツメCRBPはレチノールには強く結合するがレチナールにはほとんど結合しないことが明らかとなった。各種臓器におけるカワヤツメCRBP遺伝子の発現をノザンブロッティング法により解析したところ、全身、特に消化管で強い発現を示すことが明らかとなった。この発現パターンは全身、特に肝臓で強く発現している哺乳類CRBP Iの発現パターンとも、小腸特異的に発現している哺乳類CRBP IIの発現パターンとも異なり、両者の特徴を折衷したものであった。カワヤツメ成体は海でサケに取り付いてその血液を吸って生活している。血液中の主要なビタミンAはレチノールであるから、カワヤツメにとってのビタミンA源はレチニルエステルでもβカロテンでもなくレチノールである。カワヤツメが食餌から効率よくビタミンAを摂取するためにレチナールとの結合は必要なかったため進化の過程でレチナールとの結合性を失ったと考えられる。小腸におけるビタミンA吸収と肝臓におけるビタミンA貯蔵のバランスによって実現される血中ビタミンA恒常性維持機構は、脊椎動物進化の早い時期から発達してきたことが示唆された。
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