研究課題/領域番号 |
23790271
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 佳子 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (60548543)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プロスタグランジン / 発熱 / 視索前野 / 遺伝子改変動物 / 光遺伝学 |
研究概要 |
感染等によって引き起こされる発熱は身近な生体防御反応である。感染等によって免疫系が活性化されると、脳内でプロスタグランジン (PG) E2が産生される。これまでの研究代表者らの研究によって、体温調節中枢として知られる視索前野と呼ばれる脳領域に分布するニューロンには、PGE2のEP3と呼ばれる受容体が発現しており、この受容体にPGE2が作用することが発熱反応惹起の引き金となることが明らかとなってきた。しかし、PGE2が視索前野のEP3受容体発現ニューロンに作用することが、このニューロンにどのような影響を与え、それによって視索前野局所の神経回路や視索前野からの出力ニューロンが末梢の体温調節器官に向けてどのように遠心性の発熱指令を出すのかについては、発熱の中枢メカニズムの核心部分であるにもかかわらず、明らかとなっていない。こうした疑問を解決するために本研究では、視索前野局所における発熱惹起メカニズムの鍵となる、EP3受容体発現ニューロンの機能解析を多面的に行う。平成23年度は、トランスジェニックラットを作製し、視索前野のEP3受容体発現ニューロンに特異的にレポーター遺伝子を発現させることのできるシステムの構築に成功した。EP3受容体遺伝子のプロモーターの下流に外来性transactivatorであるtTA遺伝子を組み込むことで、6系統のトランスジェニックラットを得た。これらのラットの視索前野に、tTAで駆動されるTREプロモーターの下流でリポーター遺伝子を発現させるためのアデノ随伴ウイルスを感染させることで、EP3受容体発現ニューロンに非常に特異性の高いリポーター遺伝子発現を示した1系統を得ることができた。また、リポーター遺伝子として蛍光蛋白質だけでなく、光遺伝学実験に供するための光感受性分子など、様々な蛋白質を発現させるための高タイターのウイルスを作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画では、当該年度はトランスジェニック動物作製までの予定であったが、使用可能なトランスジェニック系統の選定を年度内に終えることができ、また、次年度の研究計画で行うこととなっていた、トレーサー実験や光操作に使用するウイルスを作製し、十分なタイターのウイルスを得ることができた。さらに、作製したウイルスをトランスジェニックラットの視索前野に感染させ、EP3受容体発現ニューロンに特異的にレポーター遺伝子を発現させることができることを確認できた。このように、当初の計画を上回るペースで順調にプロジェクトを進行させることができていると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に作製したトランスジェニックラットの視索前野へアデノ随伴ウイルスを感染させ、レポーター遺伝子として、膜移行シグナルが付加された蛍光蛋白質をEP3受容体発現ニューロン特異的に発現させる。この蛍光蛋白質はEP3受容体発現ニューロンの神経軸索の終末まで運ばれるので、これらのニューロンの投射先をすべて明らかにすることができる。この実験によって、視索前野から発熱(感染)シグナルが送られる脳領域を同定するだけでなく、これまでに知られていなかったEP3受容体発現ニューロンの投射先を同定することで、感染時に生じる食欲不振など、発熱以外の様々な症状が生じる中枢神経機序を解析する糸口とする。また、視索前野のEP3受容体発現ニューロンを生きた状態で特異的に光らせ、可視化することで、これらのニューロンのスライスパッチクランプ解析を行い、PGE2が作用した際や脳組織温度が変化した際のこれらのニューロンの電気生理学的な活動変化を調べる。さらに、チャネルロドプシンやハロロドプシンを特異的に発現させることで、EP3受容体発現ニューロンの活動をin vivoで光操作することが可能となり、これらのニューロンの活動を人為的に光操作することによる発熱や体温調節機能への影響を調べることで、こうした生理機能のメカニズムにおけるEP3受容体発現ニューロンの役割を解明する。そして、こうした解析を通じて、生体恒常性維持の司令塔としての視索前野の局所神経メカニズムの全貌を明らかにするために必要な知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
43,920円の経費が当該年度から次年度へと持ち越されるが、これは研究計画の遅れや不備から生じたものではなく、発注していた温度プローブなどの実験機材が、輸入の遅れなどのために当該年度内に納品されなかったことに起因している。これらの機材は次年度に納品予定である。次年度経費は主に、トランスジェニック動物の飼育・維持に関わる経費、実験に使用するウイルスの作製費用、パッチクランプ解析等の電気生理実験に使用する設備備品や消耗品、研究結果の報告や情報収集のために参加する学会参加費や年会費、研究結果を報告する論文投稿費用等に充てる予定である。
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