研究課題/領域番号 |
23790271
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 佳子 京都大学, 生命科学系キャリアパス形成ユニット, 研究員 (60548543)
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キーワード | プロスタグランジン / 発熱 / 視索前野 / 遺伝子改変動物 / 光遺伝学 |
研究概要 |
感染時に免疫系が活性化されると、脳内でプロスタグランジン(PG)E2が産生される。研究代表者らはこれまでに、体温調節中枢である視索前野という脳領域のニューロンにPGE2のEP3受容体が多く発現し、この受容体にPGE2が作用することが発熱シグナルの引き金となることを明らかにしてきた。しかし、視索前野の局所神経回路の仕組みは、発熱中枢メカニズムの核心部分であるにもかかわらず不明である。特に、PGE2が視索前野のEP3受容体発現ニューロンに作用することが、これらのニューロンの活動にどのような影響を与え、それが視索前野局所の神経回路にどのような変化を与えることで発熱につながるのかわかっていない。そこで本研究では、視索前野局所における発熱惹起のメカニズムの鍵となる視索前野EP3受容体発現ニューロンの多面的機能解析を行っている。前年度までにトランスジェニックラットを作製し、視索前野のEP3受容体発現ニューロン特異的に任意のレポーター遺伝子を発現させることのできるシステムの構築に成功した。今年度はこのシステムを用いて、チャネルロドプシンやハロロドプシンなどの光感受性チャネルやトランスポーターを視索前野のEP3受容体発現ニューロンに発現させ、光ファイバーを用いた脳内光照射をin vivoで行うことでこのニューロンの活動を人為的に調節し、それによって熱産生活動に変化を与えることに成功した。また、膜移行性緑色蛍光蛋白質を視索前野のEP3受容体発現ニューロン特異的に発現させることで、このニューロンの軸索の脳内における投射先をすべて可視化・同定することに成功した。現在、蛍光蛋白質を発現させたEP3受容体発現ニューロンの神経活動を、パッチクランプ実験によって解析している。これらの解析の結果は、発熱のみならず生体恒常性調節の重要な制御中枢である視索前野の局所メカニズムの解明につながるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の今年度における実施予定は、任意のリポーター遺伝子をトランスジェニックラットへ導入するためのウィルスを作製し、このラットの視索前野へ感染させ、EP3受容体発現ニューロン特異的にリポーター遺伝子が発現することを確認するステップまでであった。しかし今年度は、このステップを終え、次年度以降実施の予定であった、EP3受容体発現ニューロン特異的にその神経活動を人為的に操作するin vivo光遺伝学実験を実施し、現在も解析を進めている。さらに、膜移行シグナルを付加した蛍光蛋白質をEP3受容体発現ニューロン特異的に発現させ、このニューロンの脳内における投射先を同定することにも成功した。現在は、EP3受容体発現ニューロンの電気生理学的性質を調べるために、スライスパッチクランプ実験を前倒しして行っている。このような状況から、当初の実験計画を上回るペースでプロジェクトを遂行できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在実施中の、視索前野のEP3受容体発現ニューロンの活動の光操作実験を積み重ねていく。また、視索前野のEP3受容体発現ニューロンの軸索の投射先をすべて同定できたことをふまえ、各投射先に分布する神経軸索終末の光刺激を行う。そのために、チャネルロドプシンをこのニューロン群特異的に発現させ、軸索終末へ運ばれたチャネルロドプシンにin vivoで光照射し、熱産生のみならず、脳波、睡眠、行動、摂食などの様々な生理学的活動に対する変化を解析する。これによって、発熱のみならず、感染時に見られる食欲不振や行動低下、倦怠感などの多様な病態を引き起こす神経伝達機構の解明につなげる。さらに、視索前野の体温調節中枢機能に重要な温度感受性ニューロンの機能をEP3受容体発現ニューロンが担うか否かを調べるため、視索前野のEP3受容体発現ニューロンに蛍光蛋白質を特異的に発現させ、その神経発火活動の温度感受性を、スライスパッチクランプ実験によって調べる。こうした実験や解析によって、発熱のみならず生体恒常性調節の重要な制御中枢である視索前野の局所メカニズムを解明し、生命維持機能の核心部のさらなる理解につなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の残金223円は、当該研究計画遂行の遅れや不備によるものではなく、消費税等の差額である。この残金は、研究費を有効に使用する観点から、次年度に持ち越す。次年度の研究費の主な使用目的は、トランスジェニック動物の維持飼育経費、ウィルス作製をはじめとする分子・細胞生物学実験に必要な消耗品、パッチクランプ実験に必要な消耗品、得られた研究結果を発表、情報収集をするための学会参加費、論文投稿費などにあてる予定である。
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