感染によって引き起こされる発熱(fever)は、一時的に体温調節機構を駆動することによって体温を上昇させる生体防御反応である。微生物などが体内に侵入すると、活性化した免疫シグナルを受けて、脳内でプロスタグランジンE2が産生される。プロスタグランジンE2が視索前野のニューロンに発現する、プロスタグランジンE受容体のサブタイプの一つであるEP3受容体に作用することが、発熱の引き金となり、発熱の神経メカニズムが活性化される。しかしながら、視索前野のEP3受容体発現ニューロンがPGE2シグナルを受け取ると、このニューロンの活動がどのように変化するのか、また、この活動変化がさらに視索前野局所ニューロンへどのような作用を及ぼし、発熱が惹起されるのかは明らかとなっていない。この発熱惹起に関わる視索前野局所メカニズムを明らかにすることで発熱の中枢機構の核心を解明することを目指し、本研究では、視索前野EP3ニューロンの多面的解析を行っている。まず、EP3ニューロン特異的に任意のレポーター遺伝子を発現することを可能にするトランスジェニックラットを作製した。そして、このラットとウイルスを組み合わせることで、視索前野のEP3受容体発現ニューロン特異的にレポーター遺伝子を発現させる実験システムを構築することに成功した。このシステムを用いて、視索前野のEP3受容体発現ニューロンの軸索終末を蛍光標識させることで、このニューロンの脳内のすべての軸索投射先を同定した。また、視索前野のEP3受容体発現ニューロンにチャネルロドプシンなどの光感受性チャネルを発現させ、その神経活動を光操作することで褐色脂肪熱産生を変化させることに成功した。現在、蛍光標識したEP3受容体発現ニューロンの電気生理学的特性を解析している。
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