研究課題/領域番号 |
23790277
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
升本 宏平 近畿大学, 医学部, 助教 (60580529)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 体内時計 / 視交叉上核 / 室傍核下部領域 / 同調 / 組織培養 / Per2 |
研究概要 |
哺乳類の体内時計の中枢は視交叉上核である。しかしながら視交叉上核の時刻情報がどのように周辺脳領域に伝わり、脳領域の時計を制御しているのか未だ明らかにされていない。申請者は組織培養下における視交叉上核と室傍核下部領域の時計遺伝子の振動を発光測定系を用いることで同時に測定することを可能とした。そこで本研究では申請者が開発したこの技術を用いて、視交叉上核が室傍核下部領域の時計をどの様に制御しているか明らかにすることを目的とする。申請者はまず視交叉上核と室傍核下部領域の時計同調機構を解明するために、mPer2Lucノックインマウスから視交叉上核と室傍核下部領域を含んだ脳組織片を作製し、CCDカメラを用いて各領域の発光リズムを測定した。そして、視交叉上核背内側部、視交叉上核腹外側部、室傍核下部領域においてそれぞれ位相差があることが確認された。その位相差は測定後一週間に渡り継続しており、またフォルスコリンで組織片を刺激した後でも位相差は保持されており、視交叉上核と室傍核下部領域間で同期関係が存在することが確認された。また視交叉上核から室傍核下部領域へ向けての位相波が確認できた。このことは視交叉上核からなんらかの物質が分泌されることによって同期を保っていることを示唆している。視交叉上核から室傍核下部領域へ分泌されている物質を探索するために培養後の組織片を用いてAVP, VIPの免疫染色を行ったところ、VIP陽性神経線維が視交叉上核から室傍核下部領域に出ていることが確認できた。VIPは視交叉上核内の神経細胞間の同期を保つことに重要であることが知られており、これと同様のシステムによって視交叉上核と室傍核下部領域の同期が保たれているのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
視交叉上核と室傍核下部領域の時計同調機構の解明実験に関しては概ね予定通りに進行することができたが、使用するmPer2Lucノックインマウスの安定供給化するまでに時間を要した。また、CCDカメラが1台しかなく、スループットを上げることができなかった。当初はPMTを用いて実験のスループットを上げる予定であったが、室傍核下部領域の発光量が弱いために安定をしたデータをえることができなかった。そのため、視交叉上核が室傍核下部領域の時計を逆位相で制御する機構の解明及び時刻情報伝達物質の同定に関しては当初の予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
視交叉上核と室傍核下部領域の時計同調機構の解明のために室傍核下部領域の振動が視交叉上核無しでは維持できないことを確認する。免疫染色の結果から視交叉上核と室傍核下部領域の同調因子はVIPではないかと考えているので、VIPを軸とした検証を行っていく予定である。そのために、VPAC2ノックアウトマウスとmPer2Lucノックインマウスを交配したマウスを作製し、そのマウスの組織片を用いて同調機構が保持されるかどうかを検討する。またmPer2Lucノックインマウスの脳組織片に対してVIPやそのアンタゴニストを用いた検証も行っていく。視交叉上核が室傍核下部領域の時計を逆位相で制御する機構の解明については早期にPMTでの測定を確立させ室傍核下部領域における位相反応曲線の作成を行う。また、室傍核下部領域で刺激に反応する遺伝子についてGenechipを用いて明らかにする。時刻情報伝達物質の同定に関しては前述したVIP以外の可能性を探索する必要があるので組織培養を行った培養液をサンプルとしMALDI-TOF/MS法を用いる。そして、VIP及びその他の時刻情報伝達物質候補のアゴニスト、アンタゴニストを用いて組織培養下における室傍核下部領域の時計制御を試みる。最終的には時刻情報伝達物質をマウスに投与し室傍核下部領域の時計を制御することで行動への影響を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定通りである。組織培養用品一式を主とする消耗品に費用を要することから研究期間を通して予算を計上している。また、薬剤刺激による位相反応を測定するのでそのための予算及び時刻情報伝達物質を特定するために必要とする抗体の入手費や分子生物学的手法に使用する費用、投与物質の購入のための予算を計上している。
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