研究課題/領域番号 |
23790279
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
高瀬 堅吉 東邦大学, 医学部, 助教 (80381474)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 性差 / 動物モデル |
研究概要 |
申請者は養育環境が行動および脳機能に対して発達段階依存的に、また、性特異的に影響を与えることを一連の研究から明らかにした。また、包括的行動評価系を用いて、雌雄ラットに乳児期後期から幼児期初期に母子分離を施すと、成熟後、雄性ラットのみで不安が高まり、社会性が低下することを発見した。さらに、プロテオーム解析を用いて、この行動異常への関連が示唆される脳内分子を複数列挙することに成功した。本研究は、これら行動異常の背景にある脳内メカニズムの更なる解明を目指し、情動性、社会性の脳基盤を神経回路レベル、分子レベルで明らかにすることが目的であった。しかし、先行研究は、この時期の母子分離操作が思春期後に統合失調症の陽性症状を模した行動表現型を導くことを報告しており、今回、申請者が得た行動表現型異常は、統合失調症の陰性症状に該当することが明らかとなった。すでに雄性ラットの扁桃体の全画分で行動異常に関連する脳内分子候補22個の発現量が得られており、そのうちの大部分が神経細胞の可塑性に関わる分子であった。そこで、統合失調症に関わりがあり、かつ、神経細胞の可塑性に関わるタンパク質の発現が、統合失調症の責任部位と目される脳領域で変化していると考え、海馬体におけるカルシニューリンの発現量を調べたところ、母子分離操作を施された雄性ラットで減少していることが示された。ラットの乳児期後期から幼児期初期はストレス不応期の中期であり、この時期の母子分離操作は雄性特異的に統合失調症の陽性、陰性症状関連行動を引き起こすこと、さらにその分子機構として、海馬におけるカルシニューリンの発現が関わることが明らかとなった。申請者は、これを論文としてまとめBehavioural brain research誌に発表した。現在、統合失調症モデルとして確立した当該ラットを対象に、生化学的、生理学的、形態学的解析を更に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、情動性、社会性の異常の性特異性が認められる動物モデルという意義しか認められなかったが、研究の途上で、これが統合失調症の病態の性特異性を反映するモデルであることが示され、社会的還元性が増す結果となった。すなわち、現在までに行われている当該ラットの行動異常に関わる分子機構の解明は、統合失調症治療薬開発に繋がる創薬シーズの探索に該当することが示された。また、統合失調症の動物モデルは雄性のみが対象となるケースが大半であるが、当該モデルは申請者がこれまで取り組んできた性差研究の延長線上に位置づけられ、今後、一層の広がりが認められる魅力的なモデルである。今後、当該ラットを対象に、生化学的、生理学的、形態学的解析を更に進めることにより、心の病の最大の難問である統合失調症の病因解明、治療法開発について、一定の解答を導ける可能性が示唆された。そのため、当初の計画以上に進展していると回答した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、雄性ラットの扁桃体の全画分で現在までに列挙された行動異常に関連する脳内分子候補22個の発現量が、統制群のラット、母子分離群のラット間で実際に異なるのかをウェスタンブロット法により検討する予定であったが、先行研究と照会した結果、当該モデルが統合失調症モデルであることが判明した。速報性が高い知見と判断し、海馬のカルシニューリンの発現量の解析のみに焦点を当て、論文としてまとめたため、当初立てた予算より、消耗品費の支出を抑えられた。本年度は繰り越された資金を合わせて、統合失調症モデルの脳タンパク質解析という新たな枠組みで、生化学的解析を進め、創薬シーズの探索に務める。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記解析に必要な物品および消耗品の購入に研究費を充当する。また、得られた成果を学会や学術誌上で発表するための経費に充当する。
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