研究課題/領域番号 |
23790282
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
戸田 知得 生理学研究所, 発達生理学研究系, 特別協力研究員 (70571199)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | レプチン / 視床下部 / 糖代謝 / インスリン感受性 / 骨格筋 / 肝臓 |
研究概要 |
本研究の目的は、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンがどのようなメカニズムで骨格筋や肝臓における糖代謝およびインスリン感受性を亢進するかを明らかにすることである。我々はこれまでに、レプチンが視床下部腹内側核(VMH)に作用し、交感神経を介して骨格筋におけるグルコースの取り込みを促進することを明らかにしてきた。平成23年度は、VMHにおいてどのようなシグナル伝達因子がレプチンによる糖代謝調節に重要であるかを調べた。昨年度の成果は以下の通りである。(1)レプチンをVMHに投与すると骨格筋におけるインスリン感受性が亢進し、インスリンによるグルコースの取り込み促進作用を相乗的に増加する。(2)レプチンをVMHに投与すると肝臓におけるインスリン感受性も亢進し、インスリンによるグルコースの放出抑制作用が増加する。(3)レプチンはVMHにおいてJak/STAT3、 PI3キナーゼ/AktおよびMEK/ERKを活性化する。(4)MEK inhibitorをVMHに投与すると、レプチンによる骨格筋でのインスリン感受性亢進作用を抑制する。しかし、肝臓におけるインスリン感受性亢進作用は変化しない。(5)STAT3 inhibitorをVMHに投与すると、レプチンによる肝臓でのインスリン感受性亢進作用を抑制する。しかし、骨格筋におけるインスリン感受性亢進作用は変化しない。(6)PI3キナーゼinhibitorをVMHに投与してもレプチンの糖代謝調節作用は変化しない。これらの結果から、レプチンはVMHにおいてMEK/ERKを介して骨格筋の糖代謝を調節し、同時にVMHのSTAT3を介して肝臓の糖代謝を調節すると考えられる。これまでに知られているレプチンの作用はSTAT3またはPI3 kinaseを介しており、MEK/ERKがどのような作用を持つか不明であった。しかし、本研究は世界で初めてMEK/ERK経路の重要性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、レプチンがどのようなメカニズムで骨格筋や肝臓における糖代謝およびインスリン感受性を亢進するかを明らかにするという目標に向かって順調に研究を進め、VMHのシグナル伝達因子と末梢組織の糖代謝の関係を明らかにした。今後も申請書の計画通り実験を進める。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、肥満動物(2型糖尿病モデル)やインスリン欠乏動物(1型糖尿病モデル)を用いる。1型糖尿病モデルにレプチンを投与すると糖尿病が改善することが知られている。しかし、VMHにレプチンを投与するだけで糖尿病が改善するか、またVMHのシグナル伝達因子(MEK/ERKおよびJak/STAT3)が糖尿病の改善にどのような役割を営むかは分かっていない。また、2型糖尿病モデルにおいては視床下部のレプチンシグナルを減弱すること(レプチン抵抗性)が知られており、レプチンを投与しても糖尿病は改善しない。糖尿病の治療として一般的に用いられているチアゾリジン誘導体および運動は視床下部のレプチン抵抗性を改善することが知られている。しかし、視床下部のどの神経核でレプチン抵抗性が改善するかは詳細に検討されていない。本研究課題は今後、1型糖尿病モデルマウスにレプチンを投与したときにVMHのシグナル伝達因子が糖尿病の改善にどのような役割を営むかについて明らかにしたい。また、2型糖尿病モデルマウスにおいても糖尿病治療法の糖尿病改善作用にVMHのレプチン抵抗性およびシグナル伝達因子がどのような役割を営むかについても明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は1型または2型糖尿病モデルマウスの購入、レプチンや阻害剤の購入、ラジオアイソトープを用いた糖代謝測定に関する消耗品の購入およびウェスタンブロット・PCR等の関連試薬の購入に研究費が必要である。また、現在までの成果を論文にするために論文投稿費が必要である。さらに各種学会で成果を発表するために出張費および学会参加費を使用する予定である。
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