本研究の目的は、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンがどのようなメカニズムで骨格筋や肝臓における糖代謝およびインスリン感受性を亢進するかを明らかにすることである。我々は平成23年度に以下のことを明らかにした。①レプチンを視床下部腹内側核に直接投与すると肝臓におけるインスリン感受性も亢進し、インスリンによるグルコースの放出抑制作用が増加する。②EK inhibitorを腹内側核に投与すると、レプチンによる骨格筋でのインスリン感受性亢進作用を抑制する。しかし、肝臓におけるインスリン感受性亢進作用は変化しない。③STAT3 inhibitorを腹内側核に投与すると、レプチンによる肝臓でのインスリン感受性亢進作用を抑制する。しかし、骨格筋におけるインスリン感受性亢進作用は変化しない。 本年度はレプチンを末梢に投与した場合にも同様の変化が観察されるか、またそのメカニズムは何かについて検討した。得られた結果は以下の通りである。①レプチンを腹腔内に投与した場合にも骨格筋および肝臓におけるインスリン感受性を亢進する。②両側の腹内側核にMEK inhibitorを投与すると、腹腔内にレプチンを投与したときの骨格筋におけるインスリン感受性の亢進作用が部分的に抑制される。一方で、肝臓におけるインスリン感受性の亢進作用は変化しない。③レプチンは腹内側核ニューロンに作用した後、POMCニューロンを活性化し、その神経終末から放出されるalpha-MSHが腹内側核に作用することによって骨格筋におけるインスリン感受性を亢進する。一方で、肝臓におけるインスリン感受性は変化しない。④レプチンは腹内側核ニューロンにおいて神経可塑性に関与するタンパク質・Synapsinをリン酸化する。この作用はMEK/ERK経路を介する。⑤以上の結果をまとめ、アメリカの糖尿病専門雑誌Diabetesに報告した。
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