研究課題
近年、脂質メディエーターの生合成や分解・シグナリング経路の制御破綻が末梢性疾患の病因となることが証明されつつあるが、脂質の宝庫と言われる脳におけるシグナリング経路および生理学的・病態生理学的役割に関しては不明な点が多く残されている。本研究は脳細胞のうち最も多数を占めるアストロサイトに着目し、脂質メディエーターの及ぼす影響におけるTRPチャネルの役割について解析する。本年は、脂質メディエーターのうち、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)およびアラキドン酸代謝産物に着目し検討した結果、下記の知見を得た。1、ラット培養アストロサイトにおけるS1P受容体(S1P1-3)の発現を確認した後、アストロサイトに、0.01 μMから10 μMの濃度でS1Pを適用したところ、濃度依存的に一過性Ca2+応答と持続性のCa2+濃度上昇が観察された。各種検討より一過性Ca2+応答は、細胞内Ca2+ストアからのCa2+放出によるものであり、持続的なCa2+応答は、細胞外からのCa2+流入に起因すると考えられた。さらに選択的阻害薬を用いた検討より、持続的なCa2+応答はTRPCチャネル、特にTRPC3を介していることが明らかになった。今後はS1P適用によるアストロサイト機能変化におけるTRPCチャネルの役割について詳細に解析する予定である。2、培養アストロサイトには、脂質メディエーターであるアラキドン酸およびその代謝産物により活性化するTRPV1が発現していることが報告されていることから、アストロサイトにおけるTRPV1の機能的役割について選択的アゴニストであるカプサイシンも用いて検討したが、現在までのところ有意な作用は観察されていない。今後はTRPV1の発現量がアストロサイトの活性化状態に左右される可能性も考えて詳細に検討する予定である。
3: やや遅れている
平成23年7月頃から原因不明の理由により該当の遺伝子改変マウスの繁殖能力の低下が観察された。薬学部SPF動物施設は狭く、余剰スペースが全くないことから、さらに繁殖ペアを増やすことは不可能であったため、平成23年度に使用するマウスの絶対数が不足することになり、実験が遅延することとなった。
該当の遺伝子改変マウスの繁殖能力は回復傾向であることから、その絶対数は足りないものの、効率的に使用することで、実験を行う予定である。本年度は特にin vitro実験系においてS1Pシグナルにおける機能的な関与が示唆されたTRPCチャネルの中心的な役割について、中枢神経疾患のin vivo病態モデルも駆使して証明していく予定である。
次年度に繰り越した研究費を用いてin vitro実験系を中心にデータを取得するとともに、新たに交付される研究費を用いてin vivo実験系も駆使し、両実験系を用いて効率よく実験を行うことにより、研究費を適正に使用して、成果を得る予定である。
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