研究課題/領域番号 |
23790295
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
早田 敦子 大阪大学, 連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター, 助教 (70390812)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 精神疾患 / 樹状突起スパイン / FRET / PACAP / 5-HT2 |
研究概要 |
本研究は、統合失調症などの精神疾患の脆弱因子であるPACAP (pituitary adenylate cyclase activating polypeptide) 欠損マウスや細胞内イメージング法を用いることにより、神経回路構築や高次脳機能に重要である樹状突起スパインにおけるPACAPの役割の解析をおこない、精神疾患発症・病態メカニズムの解明することを目的とする。23年度は研究実施計画に基づき、主に以下の成果を得た。(A) PACAP欠損マウスにおけるセロトニン2A受容体 (5-HT2AR) 亢進に関する分子メカニズム解析5-HT2A作動薬によりPACAP欠損マウスにて過感受性が見られる大脳皮質や他の脳部位において5-HT2A発現量を検討したところ、有意な発現量の変化は認められなかった。しかし、5-HT2ARはGPCRであるため、細胞膜上での局在に変動が見られる可能性があることから、5-HT2ARのHalo-tag融合蛋白質を作製し、細胞膜非透過型蛍光リガンドを用いて、細胞膜上での動態をHEK293細胞にて検討した。その結果、PACAP投与により5-HT2ARの細胞膜上から細胞内への移動がおこるインターナリゼーションが生じることが明らかになった。この現象は、クラスAのGPCRであるRhodpsinでは生じないことから、PACAPシグナルが5HT2ARに直接的に関与する可能性が示され、精神疾患発症におけるPACAPの役割の解明にむけた重要な成果であると考えられる。(B) FRETイメージングを用いたスパイン形態・シグナル伝達の解析FRETイメージングに用いるPSD-95等のコンストラクト作製が完了した。さらに、HEK293細胞での発現解析では、融合蛋白質付加による生理的機能に影響が出ていないことが確認出来た。現在、初代海馬神経細胞への遺伝子導入を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、樹状突起スパイン上で細胞内イメージングやシグナル伝達解析をおこなうためのステップとして、(A) Halo-tagシステム (B) FRETイメージングの2つの系を立ち上げることが出来たことより、おおむね順調に進展していると考えられる。特に、Halo-tagシステムは、タンパク質相互作用解析から細胞内イメージング解析へと幅広い解析をするための最適なツールであり、このシステムを用いて、PACAP刺激による5-HT2ARのインターナリゼーションを捉えることが出来たのは大変有意義であると考えられる。5-HT2ARは、精神疾患との関連が深く、樹状突起スパイン上での発現が認められ、スパインの一過的な肥大へも影響することが知られている。PACAP欠損マウスでは5-HT2A過感受性がみられること、ドパミンD2・5-HT2R拮抗薬であり非定型型精神病薬でもあるリスペリドンは、PACAP欠損マウスに見られる精神行動異常を改善することなどから、PACAPと5-HT2ARとは何らかの関係があることが考えられていたが、今回初めて直接的な関与を示すことができた。この成果から、本研究の目的である細胞内イメージングを用いた樹状突起スパインにおけるPACAPの役割を解析することは、精神疾患の病態メカニズム解析に非常に重要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(A) PACAP欠損マウスにおけるセロトニン2A受容体 (5-HT2AR) 亢進に関する分子メカニズム解析Halo-tagシステムを用いて、引き続き5-HT2ARとPACAP特異的受容体であるPAC1との受容体間相互作用の解析をおこなう。PACAPによる5-HT2ARのインターナリゼーションのみならず、抗精神病薬投与時における5-HT2ARおよびPAC1の細胞内局在の変動なども明らかにすることにより、精神疾患の病態メカニズムにおけるPACAPの役割を解明していく。(B) FRETイメージングを用いたスパイン形態・シグナル伝達の解析初代海馬神経細胞への遺伝子導入系を確立し、樹状突起スパイン形態やFRETによる可視化を試みる。初代海馬神経細胞への一過的な遺伝子導入は、非常に効率が悪く、また、通常のアデノウイルスでは神経細胞へは導入され難い。神戸大学の白井康仁教授により作製され、提供していただいたNSE-tTA/tOP-GFPを用いたスパイン形態イメージングをおこなうことだけにとどまらず、スパイン形成に関わるPSD-95や遺伝子発現抑制などをレンチウイルスやエレクトロポレーションを用いて導入することにより、蛍光顕微鏡およびタイムラプスにて、スパイン形態の経時的変化、成熟過程での局在変化、FRET変化に伴うシグナル伝達の解析をおこなう。また、PACAP投与によるスパイン数増加に関わるmiRNAなどのエピジェネティクスな変化の解析も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究費については以下の使用計画を予定している。Halo-tagシステムを用いたPACAPと5-HT2A受容体相互作用を検討するため、細胞膜透過型・非透過型蛍光リガンドの購入、タンパク質間相互作用のためのhalo-tagプルダウンアッセイ用試薬の購入をおこなう。スパイン形態やシグナル伝達の解析をおこなうために、初代海馬神経細胞採取用の妊娠マウスやスライドチャンバーの購入、レンチウイルスやエレクトロポレーション用の試薬や消耗品の購入を行う。
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