本研究は、神経回路構築や高次脳機能に重要な樹状突起スパインにおけるPACAP役割の解析をおこない、精神疾患発症・病態メカニズムの解明することを目的とする。24年度は研究実施計画に基づき、主に以下の成果を得た。 (A)PACAP欠損マウスにおけるセロトニン(5-HT)2A受容体亢進に関する分子メカニズム解析 PACAPにより生じる5-HT2A受容体のインターナリゼーションは、PACAPと70%以上の相同性を持つVIPでは、有意な変化を示さなかった。また、他の5-HT受容体である5-HT1A、5-HT2C受容体を解析した結果、PACAPシグナルは各受容体の内部局在割合に有意な変化を示さなかった。さらに、PACAPシグナルのうち、おもにPAC1のPKCを介するシグナル系が5HT2A受容体の制御に関ることも示唆された。以上の検討から、PACAP-PAC1による特異的な5HT2A受容体の動態制御は、5-HT機能制御の可能性と新規創薬ターゲットとしての有用性を示すものと考えられる。 (B)PACAPによるスパイン形態・シグナル伝達の解析 初代培養神経細胞におけるPACAP投与により、培養21日目でのスパインの数および体積の増加が認められる。スパイン形成促進作用の分子機構解析として、神経機能や神経細胞の形態調節に関わる5種類のmicroRNAに着目し、PACAPによる発現変動を解析した。結果、PACAPによりmiR-132のみ発現上昇が認められ、その標的分子であり、スパイン形成に関わることが報告されているp250GAP mRNAおよびタンパク質の減少が認められた。今後、PACAPシグナルを起点とした脳領域特異的なスパイン形成異常に関わる分子機構を詳細に解析することにより、精神疾患の発症機構の解明、PACAPシグナルを標的とした新規創薬候補分子の同定に繋がることが期待される。
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