研究課題
がんのリンパ行性転移は血管と同様に間質ストローマさらには腫瘍にリンパ管が新生し、それへ腫瘍細胞が移行するとの見方が重要視されてきており、VEGF-C/D-VEGFR-3 を基盤とするシグナル伝達経路が腫瘍に随伴するリンパ管新生においても極めて重要であることが示唆されている。我々はがん依存性の血管新生において炎症性メディエーターのプロスタグランジンが重要な役割を果たすことを報告してきたが、リンパ管新生に対する炎症性メディエーターの役割については知見が乏しい。今年度は、腫瘍リンパ新生をミミックするマトリゲルモデルを用い、炎症性肉芽組織でのリンパ管新生がCOX-2を介した内因性PGE2によって増強されることを報告した。さらにPGE2は線維芽細胞およびマクロファージのEP3およびEP4シグナリングを介してVEGF-CおよびVEGF-D発現量を制御していることを示した。さらに同様の機構が生理的なモデルで作用していることを確かめるため、マウスの両背側部に直径6mmの円形皮膚全層欠損創を作成した背部創傷治癒モデルと両耳部を直径1.5mmの円形状に全層にわたって打ち抜いたHole-Punch創傷治癒モデルを作成し、形成された肉芽組織を対象にリンパ管内皮マーカーおよびリンパ管新生誘導因子をreal time PCRや免疫組織化学的手法を用いて検討した。その結果、創傷治癒過程で形成された肉芽組織ではCOX-2およびmPGES-1発現量の増加が認められるとともにリンパ管新生関連因子の発現量増加および新生リンパ管像が確認された。このリンパ管新生はCOX-2阻害薬celecoxibの投与およびEP3ノックアウトマウスにより抑制された。このことから、創傷治癒モデルの炎症性肉芽組織におけるリンパ管新生の誘導にはCOX-2およびmPGES-1を介して産生されるPGE2の関与が推察された。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍リンパ新生をミミックするマトリゲルモデルを用いて、慢性増殖性炎症巣でのリンパ管新生を制御する炎症性メディエーターとしてPGE2およびEP3/EP4受容体シグナリングの関与を明らかとすることができ、論文がアクセプトされた。生理的モデルである創傷治癒モデルを用いて、同様の機構が作用している知見を得ることができ、慢性炎症巣におけるリンパ管新生に炎症性メディエーターであるPGE2とその受容体の機能的重要性が確認できた。
このほか、腫瘍皮下接種モデル、リンパ節転移モデルでの検討を開始し、positiveな実験成果が得られだしている。詳しく検証する予定である。
計画書通り使用する予定である。今年度使用しなかった研究費については、実験動物の購入および飼育費用と一般試薬、抗体の購入に使用する。
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