本研究計画では、ATP・アデノシンが脳内代謝変化を感受し、それを神経活動修飾に結びつける橋渡しの役割を担っているのではないかと仮説を立て、ketogenic dietを代表とする抗てんかん食事療法に着目し、食事療法による脳内代謝変化がおよぼす細胞外ATPおよびアデノシンを介した抗けいれん作用の機序解明を行った。Control dietまたはketogenic diet施行ラットおよびマウスより急性海馬スライス標本をし、細胞外記録を用いてbicuculline-induced burstingに対する両者の作用を比較・検討した。ketogenic dietスライス標本では細胞外グルコース濃度低下によりbicuculline-induced burstingが有意に抑制された。一方、Control dietスライス標本では、細胞外グルコース濃度を低下してもbicuculline-induced burstingは抑制されなかった。このketogenic diet標本における抑制作用はアデノシンA1受容体の拮抗薬にて消失し、アデノシンA1受容体ノックアウトマウスで観察されなかったことからアデノシンA1受容体の活性化を介していると考えられた。また、bicuculline-induced bursting の抑制作用はpannexin-1チャネルのblocking peptideおよびKATPチャネルのblockerにて抑制された。本研究成果により、抗てんかん食事療法であるketogenic dietが脳内代謝変化を経て、(1) 細胞外グルコース濃度低下によるpannexin-1 チャネル開口を介したATPの細胞外放出を引き起こし、(2) アデノシンに加水分解された後アデノシンA1受容体を活性化し、(3) KATPチャネルを開口することにより神経活動を修飾することが示された。
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