研究課題
最近、体内の水の輸送にアクアポリン(AQPs)が重要な役割を担っていることが明らかとなってきた。しかしながら、大腸に優位に発現しているAQP3の生理的役割やその発現制御機構の詳細についてはほとんどわかっていなかった。そこで、腸管での水の輸送を劇的に変化させる瀉下剤をツールとして用いて、大腸におけるAQP3の機能とその発現制御機構の解明を試みた。その結果、浸透圧性下剤硫酸マグネシウムの瀉下作用が単に浸透圧の変化のみによってもたらされるものではなく、大腸AQP3の発現増加を伴って極めて合理的に生じている可能性が示唆された。また、硫酸マグネシウムは細胞内マグネシウム濃度を増加させることにより、アデニル酸シクラーゼの活性化、プロテインキナーゼAの活性化およびCREBのリン酸化の亢進を介して、大腸のAQP3を増加させていることが明らかとなった。一方、大腸刺激性下剤ビサコジルは大腸のAQP3の発現量を低下させることにより、腸管側から血管側への水の移動を抑制し、瀉下作用を示している可能性が示唆された。また、ビサコジルは直接、大腸のマクロファージを活性化させることによりPGE2の産生および分泌を亢進すること、およびこのマクロファージの産生するPGE2がパラクライン因子として大腸粘膜上皮細胞に作用し、AQP3の発現を低下させていることが明らかとなった。さらに、AQP3の機能を阻害することが知られているHgCl2およびCuSO4を用いた実験から、大腸AQP3の機能を阻害すると下痢が発生することも明らかにした。以上の結果から、大腸のAQP3の発現量や機能の変化が便の水分量を変動させる極めて重要な因子であることが明らかとなった。今後、大腸AQP3の発現および機能と水の移動についてさらなる研究を展開することにより、AQP3をターゲットとした新たな瀉下剤や止瀉剤の開発が可能になるものと考える。
すべて 2012
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