研究課題/領域番号 |
23790313
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
添田 義行 独立行政法人理化学研究所, アルツハイマー病研究チーム, 研究員 (10553836)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | タウ / スクリーニング / 化合物 / 認知症 |
研究概要 |
アルツハイマー(AD)の脳内ではタウ蛋白を主成分とした神経原線維変化が観察される。タウの機能異常は神経毒性を誘発し、認知機能障害を進展させることが報告されているため、タウを標的とする薬物開発は新しい認知症治療薬の発見に寄与する可能性がある。そこで、本研究課題ではタウを標的とした化合物の探索を遂行する。まず、平成23年度はタウの機能異常の1つであるタウ凝集に着目し、それを抑制する化合物の探索を行った。 研究代表者が以前に発見したタウと結合できる95化合物を用いて、in vitroにおけるタウ凝集アッセイを遂行した。その結果、タウ凝集を著しく抑制する3化合物(C10,22,92)を発見した。その内、C10および22は共通の骨格を有する化合物であったため、それらの類似構造体であるC10-1~10-4のタウ凝集抑制作用をin vitroで検討した。その結果、これらも著しくタウ凝集を抑制した。その中で、細胞を透過することが期待されるC10-4の効果をヒトP301L変異体タウ(凝集能の高いタウ)を過剰発現する培養細胞およびマウスを用いて検討した。その結果、培養細胞およびマウスにおいて、C10-4の処置は界面活性化剤に不溶性タウ(タウ凝集)を低下させた。また、P301L変異体タウ過剰発現マウスではタウ凝集に伴って、嗅内野とTemporal areaにおける細胞数の低下、前脳領域の神経活動の低下および情動行動の異常が観察されるが、C10-4はこれらの異常を抑制した。以上より、in vitroおよびin vivoにおいてタウ凝集およびタウによる毒性を抑制する新たな化合物としてC10-4を発見した。また、ADの認知機能障害の進展においてタウ凝集は重要な分子基盤である可能性が報告されているため、C10-4はAD治療のための創薬において有望な化合物となりえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、タウの毒性を抑制する化合物を発見し、さらに、ADモデルマウスにおいてその化合物の投与効果を検討することである。その中で、平成23年度はタウ凝集を抑制する化合物の探索を遂行した。その結果、タウ凝集を引き起こすP301L変異体タウ過剰発現マウスにおいて、界面活性化剤に抵抗性のタウを低下させる化合物のC10-4を発見した。さらに、C10-4はタウによる毒性(神経細胞数の低下や行動異常)も抑制した。このように、平成23年度においてタウ毒性を抑制する化合物を少なくとも1つ発見しており、大きく研究を進展させたと考えている。 研究実施計画では、P301L変異型タウ過剰発現マウスに加えて野生型タウ過剰発現マウス(嗅内野におけるシナプスロスと脳活動の低下および学習・記憶障害が観察される)における化合物投与の効果を検討することで、より厳密に化合物のタウ毒性抑制効果について言及すると記載している。このため、C10-4の野生型タウ過剰発現マウスに対する投与効果を検討した。その結果、C10-4の処置は野生型マウスが示す表現型を改善する傾向にあったが、結論には至らなかった。そこで、平成24年度には野生型タウ過剰発現マウスを用いてC10-4がタウ毒性を抑制するかを引き続き遂行する予定である。 以上より、本研究課題の平成23年度分の遂行に当たり、当初の計画以上に進展した部分もあったが、一部遅れている部分もある。このため、区分(2)おおむね順調に進展しているとの自己評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的に記載した通り、本研究課題ではタウの毒性を改善する化合物を探索し、認知症治療薬の開発に繋げることを目標としており、(1)タウの凝集阻害 (2)タウの分解亢進 (3)微小管の安定化といった異なる化合物探索アプローチを行う。まず、平成23年度はタウ凝集をターゲットとした化合物の探索を行った。その結果、タウ毒性を抑制する非常に有望な化合物(C10-4)を発見しており、この化合物は臨床へ応用できる可能性があると考えている。そこで、今後は(1)タウ凝集をターゲットとした化合物(C10-4)の評価を集中的に行うため、(2)タウの分解 (3)微小管の安定化をターゲットとした化合物探索の研究の規模を縮小し、計画を進める必要があると考えられる。その具体的な内容として、1)C10-4の構造に化学的修飾を加え、より高いバイオアベイラビリティーを示す化合物を探索する。2)発見した化合物を用いて培養細胞および動物モデルにおいてタウ毒性を抑制するかを検討する。3)1,2)で発見した有望な化合物またはC10-4の毒性を検討する。といった3点を遂行する。 平成23年度においてはP301L変異体タウ過剰発現マウスと違った表現型(嗅内野におけるシナプスロスと脳活動の低下および学習・記憶障害)を示す野生型タウ過剰発現マウスに対するC10-4の効果も検討した。その結果、C10-4は野生型タウ過剰発現マウスで観察される表現型を改善する傾向にあったが、有意な差を検出できず、結論に至らなかった。その後、追加の実験をする予定であったが、平成23年度内には実験に必要な月齢(24ヶ月齢)に達した野生型タウ過剰発現マウスがおらず、解析が不可能であった。このため、上記実験(野生型タウ過剰発現マウスを用いた実験)を平成24年度に行えるようにするため、次年度使用額に平成23年度未使用額である132,207円を記載した。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は5つの計画に従って研究を推進する。(1)C10-4の構造に化学的修飾を加えた化合物のタウ凝集抑制作用の検討(250,000円);C10-4は本研究で見出したタウ凝集抑制化合物であり、その性状については不明な点も多い。このため、C10-4の構造に化学的修飾を加えた化合物を合成し、それの効果を検討することは、より有用性の高い化合物の発見に繋がる可能性がある。そこで、有機合成の研究者と協力することで候補化合物を合成し、その後、in vitroにおいてタウ凝集抑制作用を検討する。(2)タウを過剰発現する培養細胞および動物において(1)で発見した化合物の効果を検討(350,000円);(1)で発見した化合物をP301L変異体タウを過剰発現する培養細胞およびマウスに処置し、界面活性化剤に不溶性のタウ(タウ凝集)を検出・定量する。その後、P301Lタウ過剰発現マウスが示す表現型に対する化合物の効果を検討する。(3)(1)(2)で選定した化合物またはC10-4の毒性を検討(100,000円);(1)(2)で効果のあった化合物またはC10-4の毒性を検討するため、C57BL/6マウスを用いてLD50の算出等を行う。(4)野生型タウ過剰発現マウスにおけるC10-4の効果を検討(130,000円);C10-4の処置が野生型タウ過剰発現マウスが示すシナプスロス、脳活動の低下および学習・記憶障害に及ぼす影響を、それぞれ、免疫染色法、Mn-MRIおよびモリス水迷路試験で検討する。(5)タウの分解亢進および微小管の安定化をターゲットとした化合物の探索(200,000円);タウと結合できる化合物によるタウ分解および微少管安定化作用を示すかどうかをin vitroの系で検討する。その後、有用な化合物を見出した際には、タウを過剰発現する培養細胞や動物に化合物を処置し、その効果を検討する。
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