本研究では、タウの毒性を改善する新規化合物を発見するための探索研究を行っており、平成24年度までに神経細胞死を抑制するタウ凝集阻害剤として、イソプロテレノール (ISO)を発見した。それを受けて、平成25年度はISOのタウ凝集阻害効果に着目し、より詳細な研究を遂行した。 (1) ISOのタウ凝集阻害機構の解明; ISOがタウ凝集阻害効果を示すにはタウに結合することが必須であり、その部位を特定することは新たなタウオパチー治療薬の開発に寄与出来る可能性がある。そこで、ISOのタウ結合部位を同定する実験を遂行した。その結果、ISOはタウに含まれる2つのシステイン残基に結合することを見出した。したがって、ISOはシステイン残基への結合を介して凝集時に形成されるタウ間のジスルフィド結合を抑制し、タウ凝集を阻害していると考えられる。 (2) D-ISOのin vivoにおけるタウ凝集阻害作用と安全性の検討; D-ISOは、ISOの光学異性体の1つでISOの有するアドレナジック作用がほぼないため、より安全性の高いタウ凝集阻害剤と成り得る可能性がある。そこで、D-ISOを脳内で凝集体が観察されるP301L変異体タウ過剰発現マウスに投与し、タウ凝集阻害作用と安全性を検討した。その結果、D-ISOは500 mg/kg body weightといった高濃度投与においても副作用を起こすことなく、タウ凝集を抑制することを見出した。 (3) ISOのタウ凝集体分解作用の検討; これまでの結果から、ISOはタウ凝集過程を阻害するが、一度形成されたタウの凝集体に対する作用は不明であった。そこで、ISOがタウ凝集体に対して分解および結合作用を有するかを検討したが、そのような作用は観察出来なかった。 以上より、平成25年では、ISOはタウ凝集体を分解せず、その凝集阻害作用にはタウ配列中のシステイン残基への結合が関与すること、さらに、D-ISOが高濃度まで副作用を誘発せずにタウ凝集を阻害することを見出した。
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