研究課題/領域番号 |
23790315
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
宮野 加奈子 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, リサーチ・レジデント (50597888)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | TRPチャネル / 疼痛 / 抗がん剤 / 末梢神経障害 |
研究概要 |
本研究の目的は、がん患者の疼痛病態時におけるTRPC3チャネルの機能を解明し、さらに近年開発されたTRPC3阻害薬pyrazole-3を新規鎮痛薬として臨床応用へ繋げるための基盤データを蓄積することである。当該年度は、抗がん剤治療時に発症するしびれ、痛みなどをはじめとする末梢神経障害に着目し、抗がん剤投与による痛覚異常におけるTRPC3の役割について解析した。1. 抗がん剤投与による末梢神経障害モデルの作製:マウス(雄性C57BL)に抗がん剤carboplatinを10 mg/kg/回で週2回、合計4回投与し、以下(1)~(3)に示す方法を用いて疼痛評価を行った。(1)von Frey test:carboplatin投与回数依存的に疼痛閾値の低下、すなわちmechanical allodynia (通常痛みを感じない機械刺激に対して痛いと感じる症状) が観察された。(2)acetone test:carboplatin投与開始1日目からacetone刺激による疼痛反応が増加し、cold hyperalgesia (冷刺激に対して過敏になる症状)が観察された。(3)hot plate test:saline投与群とcarboplatin投与群では熱刺激に対する疼痛回避反応に有意な変化は認められなかった。これらの結果より、carboplatinがmechanical allodyniaおよびcold hyperalgesiaを引き起こすことが明らかとなった。2. pyrazole-3の鎮痛効果の評価:上記で作製したモデルマウスの腹腔内にpyrazole-3 (30 mg/kg)を投与後、疼痛評価を行った。その結果、pyrazole-3はcarboplatin投与によるmechanical allodyniaおよびcold hyperalgesiaの両方を改善することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、抗がん剤治療によるがん患者のしびれ、痛みを再現するモデル動物の作製に成功した。さらに、このモデルを用いて本研究の核であるTRPC3阻害剤pyrazole-3の鎮痛評価を行い、抗がん剤carboplatinによるmechanical allodyniaおよびcold hyperalgesiaに対してpyrazole-3が有効であることを初めて明らかにした。現在、臨床においては抗がん剤によるmechanical allodyniaやcold hyperalgesiaなどの末梢神経障害を満足にコントロールできていないことが多く、抗がん剤治療の中止を余儀なくされる場合もある。そのため、抗がん剤による末梢神経障害は、がん患者のQuality of Lifeの低下だけでなく生命予後にまで影響を与える重大な副作用である。当該年度において得られた結果は、オピオイドなどの従来の鎮痛薬で制御することが困難な痛みにTRPC3が関与しており、またその阻害薬pyrazole-3が新規鎮痛薬として臨床応用できる可能性を示すものである。本研究の目的の中心となる結果は概ね得られていることから、順調な進捗を示していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに抗がん剤carboplatin治療による末梢神経障害(しびれ、痛みなどの痛覚異常)にTRPC3阻害薬pyrazole-3が有効であることを明らかにした。今後はさらにcarboplatinによる痛覚異常発症メカニズムを明らかにするために、以下に示す検討を行う予定である。1. carboplatin投与によるTRPC3発現の変化:carboplatin投与による末梢神経障害モデル動物を作製し、一次感覚神経の細胞体が存在するdorsal root ganglion (DRG)およびその神経が投射する脊髄におけるTRPC3のmRNA、タンパクレベルでの発現変化をreal time PCR法、western blotting法や免疫組織化学染色法などを用いて解析する。2. TRPC3を活性化させる疼痛増強因子の探索:TRPC3は疼痛増強因子(bradykinin, prostaglandinsなど)により活性化される可能性が考えられている。そのため、carboplatin投与によりDRGおよび脊髄おいて疼痛増強因子が増加しているか否かについてELISA法などを用いて測定する。さらに、carboplatin投与により増加が認められた疼痛増強因子については、それがTRPC3をどのようなメカニズムで活性化するのかをCellKey system assayやCa2+ imaging assayなどを用いたin vitro実験により明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、上述した研究推進方策を進めるために必要な試薬の購入に充当する予定である。具体的には、real time PCRに必要なプライマーやSYBR Green I、western blottingや免疫組織化学染色に必要な抗体、ELISAキット、CellKey system assay専用の96 well plate, Ca2+ imaging assayに必要なCa2+蛍光指示薬などの消耗品の購入に充てる。
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