研究課題
本研究の目的は、Nrf2依存的遺伝子発現調節における左巻きZ-DNA構造が果たす役割の解明である。この目的を達成するために以下の実験を実施した。1.Z-DNA形成の転写制御への貢献:ヘムオキシゲナーゼ‐1(HO-1)遺伝子は、酸化ストレスをはじめとする環境ストレスに応答して発現が活性化する。ヒトHO-1遺伝子プロモーター領域には、左巻きZ-DNA構造を取りうるチミンーグアニン反復配列がある。前年の結果、反復配列がZ-DNAを形成することがわかった。そこで、Z-DNA形成領域のヌクレオソーム占有率を検討したところ、ヒトHO-1遺伝子プロモーター領域では、刺激後速やかにヌクレオソームが減少することがわかった。さらに、RNA polymerase IIの結合が増強することから、Z-DNAは転写増強に関与すると考えている。2.Z-DNA形成におけるBRG1の役割:私たちは以前BRG1がHO-1遺伝子発現を選択的に増強することを報告している。Z-DNA形成におけるBRG1の役割を解明するために、HeLa細胞にBRG1に特異的なsiRNAを形質導入した際のZ-DNA形成について検討した。その結果、BRG1を発現抑制すると、Nrf2発現が低下してしまった。次に、BRG1のヒトHO-1遺伝子領域への結合挙動を検討した。その結果、BRG1は刺激によりHO-1のエンハンサーおよびプロモーター領域に結合した。以上から、BRG1はHO-1遺伝子プロモーターのZ-DNA形成に関与していると考えている。本研究により、DNAの形にコードされた情報が転写因子Nrf2およびBRG1により協調的に読みだされ、クロマチン構造に影響して、遺伝子発現を調節することが明らかになった。今後は、本研究期間では解明できなかったZ-DNA構造形成の分子機構を検討していきたい。
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