本研究は「ヘムが液性免疫応答を調節する」というヘムの新たな機能を提唱すると共に、その生体での意義を追求することにある。転写抑制因子Bach2は形質細胞分化を抑制し、クラススイッチ組換えに必須であることが示されている。申請者は、ヘムがBach2と直接結合し、その転写抑制能を不活性化することを見いだした。更にヘムは、成熟B細胞から形質細胞へと分化を促進することを示している。しかしヘムによるBach2の詳細な制御機構は不明であり、本研究ではこの点について解決することを目的とした。 前年度には、大腸菌発現系を使用し、Bach2の様々なアミノ酸領域について発現・精製を行ない、ヘム結合様式について分光学測定を行うことでヘムに制御されるBach2タンパク質のアミノ酸領域を同定した。同定された「ヘム制御ドメイン」については、円偏光二色性スペクトル、動的光散乱測定等の結果から天然変性タンパク質であることが示された。 最終年度は、更に「ヘム制御ドメイン」について小角散乱測定を行い、Bach2の天然変性領域にヘムが結合すると、ヘム結合に伴うBach2の構造変化を示す結果が得られた。実施計画に基づき「ヘム制御ドメイン」欠損トランスジェニックを作出しBach2の転写抑制機構にどの様な影響を与えるか検討した。その結果、野生型と比較して「ヘム制御ドメイン」欠損マウスとでは、Bach2の直接標的遺伝子のmRNA発現に大きな変化はみられなかった。研究期間内で、ヘムによるBach2の構造変化について、物理学的な手法を中心に明らかにすることができた。しかし、トランスジェニックマウスを用いた検証ではその意義を明らかにすることはできなかった。今後は、生体内における「ヘムによるBach2の構造変化」が及ぼす影響について、「ヘム制御ドメイン」と相互作用する因子の同定を行うことで明らかにしていく予定である。
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