研究課題/領域番号 |
23790322
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武藤 哲彦 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80343292)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 発現制御 / 転写因子 / Bach2 / ユビキチン |
研究概要 |
免疫応答において活性化B細胞は、抗原をその種類に合わせて効果的に排除するため、初期設定のIgM抗体からIgGなどの他のアイソタイプ抗体へクラスを変換(スイッチ)する。B細胞がクラススイッチを実行するための遺伝子調節ネットワークの確立には、転写因子Bach2が必須であることを示した。しかし、このような遺伝子ネットワークの状態を規定するBach2の活性を制御する機構は不明である。一方で、Bach2タンパク質がユビキチン化修飾され、分解されること、および、ユビキチンのE3リガーゼの基質認識アダプター候補を同定している。本研究では、Bach2のユビキチン化修飾によりB細胞の活性化応答が制御される可能性を検討することを目的としている。 平成23年度は、Bach2のユビキチン化を調節すると推定されるE3リガーゼの基質認識アダプター候補であるMIPPとKlhl9のBach2ユビキチン化における役割を検討することを目的とした実験をおこなった。まず、それぞれのリコンビナントタンパク質を用いた試験管内再構成系実験にてアダプター候補因子の2量体の組み合わせを変えてBach2タンパク質をユビキチン化する程度を比較した。 また、Bach2ユビキチン化システムの生理的な意義を解明するために、MIPPとKlhl9遺伝子をCD19プロモーターで転写を駆動するトランスジェニックマウスを作成した。さらにMIPP遺伝子の誘導式ノックアウトマウスの作出を計画中である。 所属研究室では試験管内再構成系実験は初めての試みでありるため、Bach2タンパク質の翻訳後修飾を検討するためには必要なノウハウを得ることができた。さらにBach2タンパク質自身が翻訳後修飾を受けるか否かを検証できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、第一にMIPPおよびKlhl9の基質認識アダプターとしての機能の解明を目指した。そこで、昆虫細胞発現で発現させたリコンビナントタンパク質を用いて、ユビキチン化の試験管内再構築系による検討に挑戦した。Bach2はRING型E3リガーゼのサブタイプであるCullin3型E3リガーゼ複合体により、ユビキチン化修飾される可能性がある。RING型E3リガーゼの基質認識アダプターは2量体で機能すると考えられていることから、昆虫細胞株にバキュロウィルスを感染させてMIPPまたはKlhl9のホモ2量体およびMIPPとKlhl9のヘテロ2量体がBach2ユビキチン化に与える影響を検討した。現時点では、MIPPおよびKlhl9リコンビナントタンパク質を発現させることに成功している。さらに、両方の因子を同時に発現させる場合にその量比を同じくすることにも概ね成功している。そして本ユビキチン化検証系のポジティブコントロールとして、同じくCullin3型E3リガーゼ複合体でユビキチン化される転写因子Nrf2と基質認識アダプターKeap1の試験管内ユビキチン化も併せて検討中である。 第二にBach2ユビキチン化システムの生理的意義の解明を目指した。そこで、CD19プロモーターで転写を駆動させて、B細胞に特異的にKlhl9もしくはMIPPを発現するトランスジェニックマウスを作出した。また、MIPP遺伝子の第一エクソンをflox配列で挟み、Creを発現するマウスと交配することで誘導的に遺伝子ノックアウト出来るマウスの作出を目指ている。ただし、こちらはターゲティングベクターを構築中であり、MIPP遺伝子全体を載せたバクテリア人工染色体(BAC)クローンを入手できており、ターゲティングベクター案に基づいて構築予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ユビキチン化の試験管内再構築系による検討では、ポジティブコントロールとなるNrf2-Keap1でのユビキチン化の検証を確実なものにすることを優先事項とする。また、Bach2がユビキチン化される刺激の候補であるヘム添加がユビキチン化に与える影響も併せて検証する。また、実験計画にあったBach2複合体を精製してユビキチン化活性を測定することも試みている。この解析を発展させて、Bach2タンパク質複合体の精製と構成因子の同定(Bach2複合体解析)をマススペクトロメトリー解析を導入して試みている。さらに、Bach2複合体解析では、Bach2タンパク質の翻訳後修飾として、ユビキチン化以外の修飾に関しても検討する予定である。また、ノックアウトマウス作出では、試験管内再構築系の結果を踏まえて実験計画を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は以下の2つの項目について研究を進める。1. ノックアウトマウスの表現型の解析ノックアウトマウスの解析では、Bach2タンパク質の蓄積を確認する。その上で、マウス固体でB細胞から形質細胞への分化頻度および抗体クラススイッチの異常の有無を解析する。2. マウス脾臓B細胞でのMIPPおよびKlhl9のノックダウンと分化誘導実験野生型マウスの脾臓B細胞を用いた初代培養実験系においてMIPP単独、Klhl9単独もしくは両方同時といった3種の組み合わせでノックダウンをおこなう。ノックダウンしたB細胞は、培養系で活性化し、分化誘導する。そこで、クラススイッチしたB細胞の出現頻度および形質細胞への分化頻度をフローサイトメーターで解析する。さらにmRNAを回収し、定量PCRにてBach2を中心とした遺伝子調節ネットワークを構成する遺伝子の発現を検討する。
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