体細胞のiPS細胞への初期化過程においてクロマチンの折りたたみ構造が劇的に変化し、それが多分化能をもたらす重要な分子基盤となっている。また、クロマチンの立体構造とヒストン修飾の間には密接な関係性がある。本研究は、多能性幹細胞に特徴的な、プロモーター領域におけるbivalentヒストン修飾と高次クロマチン構造の関係性を明らかにし、それが多能性獲得に果たす役割を解明することを目的とする。 昨年度、我々はHi-C法と呼ばれる手法を用い、マウスの繊維芽細胞と多能性幹細胞(iPS/ES細胞)のクロマチン高次構造を全ゲノムレベルで解析した。結果、多能性幹細胞の染色体は自由に状態変化することのできる動的な性質を持つことを示唆するデータが得られた。一方で染色体の大まかな折りたたみのパターンは、体細胞と多能性幹細胞の間で非常に似通っていることも分かった。こうした事実は、従来の電子顕微鏡観察などでは得られなかったものであり意義深い。しかし、Hi-C法は上記のような大局的な構造を捉えることには優れているが、個別のプロモーター領域などの局所的な立体構造まで明らかにするには非現実的なデータ量が必要であることが分かった。 そこで本年度はbivalent修飾とクロマチン高次構造の関係性についてアプローチするため、特定の染色体領域の構造を集中的に解析することのできる3C-Seqという手法を開発した。本手法は従来広く用いられてきた同様の手法に比べて実験的なバイアスが低く抑えられるよう工夫がなされている。そして、3C-Seqを用いた解析により、bivalent修飾を受けることが知られるある遺伝子のプロモーター領域においてクロマチン構造が繊維芽細胞とiPS細胞で異なることを示すデータが得られた。今後、こうした解析を発展させることで多能性を獲得する上で重要なクロマチン高次構造を見出すことが出来るものと期待される。
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