研究課題
精子幹細胞であるGS(Germline Stem)細胞は精子形成能を保ったまま試験管内で安定に増殖する。このGS細胞は培養中に多能性幹細胞mGS(multipotent Germline Stem)細胞に変化する場合がある。本研究ではGS細胞のエピジェネティック制御のうち特にヒストン修飾とSmall RNA経路に着目し、これらエピジェネティック制御機構の破綻によるmGS細胞誘導を試みる。 平成23年度ではsmall RNA経路で重要なDrosha/Dgcr8/Argonaute/Piwiなどの遺伝子に対するshRNA発現レンチウイルスベクターを用いて、GS細胞内でこれらのmRNA発現を低下させることができた。またsmall RNA経路のうちmiRNA経路で特に重要なDicer遺伝子のコンディショナル欠損マウスよりGS細胞を樹立した。このGS細胞にCreリコンビネースを発現するアデノウイルスベクターを感染させてDicer遺伝子欠損GS細胞を作出した。Dicer遺伝子欠損GS細胞は精子形成能などGS細胞の性質を保ったまま維持培養する事ができた。しかしDicer遺伝子が欠損し、miRNA経路が破綻してもGS細胞からmGS細胞への変化は見られなかった。 次にエピジェネティック制御でsmall RNA経路と並んで重要なヒストン修飾について、GS細胞での遺伝子発現データを元に標的遺伝子を絞り込んだ。それらのうちH3K9メチル化を制御するG9a/Glp遺伝子, H3K4メチル化を制御するMll遺伝子, H3K27メチル化を制御するEzh2/Ring1遺伝子に対して同様にmRNA発現を低下させることができた。 またmGS細胞を効率良く検出するために、mGS細胞の指標となるNanog遺伝子のプロモータ下流でGFPを発現するトランスジェニックマウスよりGS細胞を樹立した。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度内では精子幹細胞から効率良く多能性幹細胞を誘導できる結果は得られていない。しかしshRNA発現レンチウイルスベクターによるGS細胞での遺伝子ノックダウン、多能性幹細胞マーカーであるNanog-GFPレポーターマウスからのGS細胞の樹立など実験系の構築は成功している。またそれらの実験系を用いたエピジェネティック制御遺伝子のノックダウンやDicer遺伝子欠損マウスからのGS細胞樹立など、申請書の計画の実験は順調に進行している。
平成23年度ではGS細胞での遺伝子ノックダウン方法や多能性幹細胞レポーターGS細胞の準備など実験系の構築に成功し、それらを用いた遺伝子発現低下GS細胞の作製まで進めることができた。平成24年度では作製した遺伝子導入GS細胞の表現型解析を行い、mGS細胞化を促す条件を検討する。
申請書に記載の通り使用する。一般試薬や培養試薬、細胞培養器具や実験動物など消耗品の購入で多く使用する計画である。
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Biology of Reproduction
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10.1095
巻: 85 ページ: 208-217
DOI:10.1095/biolreprod.111.090837
Cell Stem Cell
巻: 9 ページ: 463-475