最終年度はWnt3aとEGFシグナルが協調的に分枝管腔形態形成を制御するメカニズムに関する解析を行い、以下の研究成果を得ている。①Wnt3aとEGFは遺伝子発現を介して分岐管腔形成を制御することがRNAポリメラーゼIIの阻害剤を用いた実験から明らかになった。DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析からWnt3aとEGFで刺激することで発現が上昇し、分枝管腔形成を制御する新規遺伝子を同定した。②Wnt3aとEGFシグナルは上皮細胞に対して細胞骨格の制御因子であるRacの活性化とRhoの抑制を誘導することで細胞形態の伸長と三次元基質内での細胞運動活性化を誘導した。③マウス胎児から摘出した唾液腺原基をマトリゲル内で器官培養する実験系を確立した。培養上皮細胞で同定した新規管腔形成制御遺伝子の発現を検討したところ、唾液腺の形態形成に伴って上皮細胞においてその発現が上昇することが明らかになった。Racの阻害剤処理によって唾液腺の分枝形成が阻害されること、Rhoキナーゼの阻害剤によって分枝形成が促進することから生体の管腔臓器の発生も培養上皮細胞と同様の機構で制御される可能性が示唆された。 研究期間全体を通じてWntがEGFシグナルと協調的に上皮細胞の空間的な分枝管腔形成を制御する新たな機構が明らかになった。Wnt3aが管腔形成を空間的に制御するにはWntが細胞外基質と親和性を有する性質が重要だった。Wnt3aはEGFシグナルと協調的に遺伝子発現を活性化し、細胞骨格の制御因子であるRacとRhoの活性調節を介して上皮細胞の形態変化と運動能亢進を誘導した。今回の研究で明らかになった新たな分枝管腔形成の制御機構が生体内の管腔臓器の発生でも認められることが示唆されていることから、本研究成果は種々の管腔臓器の発生と再生の仕組みを理解するための新たな分子基盤を提供するものであると考えられる。
|