研究課題
(1)LOG1の組織および細胞内発現・局在解析。In situ ハイブリダイゼーション法により、表皮におけるLog1遺伝子の発現を解析し、基底層を除く有棘層、顆粒層の細胞における遺伝子発現を明らかにした。胎仔皮膚を用いたRT-PCR解析でも、表皮の重層化が始まる時期と一致してLog1の発現が認められた。以上より、LOG1の発現開始時期はケラチノサイト終末分化の開始時期と一致していることが明らかとなった。また皮膚ケラチノサイト初代培養にエピトープタグを付加したLOG1を導入して抗体免疫染色による局在解析を行ったところ、細胞膜に局在することがわかった。LOG1は分化状態にあるケラチノサイトの細胞内では、小胞体ではなく細胞膜へと移行する可能性が示唆された。(2)KOマウス表現型解析(組織学的解析)。KOマウスの皮膚の乾燥状態から、水分蒸散が亢進していることが予想されたが、それを定量的に評価できていなかった。そこで、新生仔マウスの経表皮水分蒸散量を測定したところ、KOマウスでは野生型マウスに比べて水分の蒸散が3倍ほど上昇していた。また角質層のみでも、水に対する透過性が顕著に上昇していることがわかり、水バリア機能の破綻は角質層の異常に起因していることが明らかとなった。KOマウス胎仔および新生仔の皮膚を用いて、ケラチン等の分化マーカーや、タイトジャンクションのマーカーの発現・局在を解析したが、野生型マウスとの間に顕著な違いは認められなかった。角質層については若干の肥厚と、角質細胞層間の密な接着が認められた。(3)In vitro リパーゼ活性解析。哺乳類培養細胞にFlagタグを付加したLOG1を発現させ、部分的に精製した。試験的なリパーゼ活性測定により、p-ニトロフェノール-パルミチン酸のエステル結合加水分解活性が見られたことから、精製したLOG1はリパーゼ活性を維持しているものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
(1)LOG1の組織および細胞内の発現・局在解析。特異的抗体の作成とそれを用いた免疫組織染色、表皮ケラチノサイトを用いた3D表皮培養モデルの確立、電子顕微鏡による微細構造解析など、いくつかの点に関しては当初の目標を達成できなかった。特に抗体作成に関してはいくつか異なる手法による作成を試みたが、十分な反応性を持った抗体を得ることができなかった。しかし、研究計画には当初含まれていなかった胎仔皮膚におけるRT-PCR解析を実施しLog1の発現開始時期と表皮の重層化開始の時期が一致することを突き止めた。また、in situハイブリダイゼーションや、ケラチノサイト初代培養での局在解析からLOG1の発現時期と局在に関してその概要を掴むことができた。(2)KOマウス表現型解析(組織学的解析)。分化マーカーの局在、分布についてはその解析を完了したほか、研究計画には当初含まれていなかった経上皮水分蒸散量測定、角質層水透過性解析などの幾つかの重要な解析を実施することができた。特に経上皮水分蒸散量測定により、KOマウスの表現型を定量的に評価することができた。また、皮膚丸ごとではなく角質層のみで実施した水透過性解析により、積極的に角質層に異常があることを示すことができた。これにより、角質細胞層間の脂質の変動解析を中心に据えるという今後の研究推進の方向性を固めることができた。(3)In vitroリパーゼ活性解析。哺乳類培養細胞でLOG1を発現し、粗精製標品を得た。試験的な解析で、一般的に用いられているリパーゼ基質に対する分解活性としてLOG1のリパーゼ活性を検出できた。上記内容に加えて、平成24年度に実施する予定であった薄層クロマトグラフィーによる角質層の脂質変動解析にも既に着手している。したがって、実施内容の変更や実施予定の前後は幾らかあるものの、おおむね当初の計画のとおり進展していると考える。
今後は、(1)LOG1の特異的抗体の作成と局在解析、(2)電子顕微鏡観察による組織学的解析、(3)表皮脂質組成変動解析とin vitroでの活性実証、を中心に研究を推進する。(1)LOG1の特異的抗体の作成と局在解析。大腸菌の発現系では、全長あるいは部分断片化したLOG1タンパク質を可溶性のものとして回収することができなかった。そのため、封入体やペプチドを抗原としてウサギ抗血清を得たが、免疫組織染色に使用するにたる反応性と特異性を持った抗体を得ることができなかった。また、哺乳類の培養細胞を用いた場合には、抗原として十分な量と純度を確保することが困難であった。今後は、昆虫細胞を用いた発現精製系の確立に取り組むことを予定している。免疫動物にはウサギだけでなくニワトリの使用も検討する。作成した抗体を用いて、タンパク質レベルで組織における発現時期・局在を明らかにするほか、ケラチノサイトにおける内在性LOG1の細胞内局在も明らかにする。(2)電子顕微鏡観察による組織学的解析。角質層の脂質は層板構造をとって細胞間に充填されている。また、角質下層の顆粒層細胞がもつ層板顆粒には角質層細胞間脂質の前駆体となる脂質が含まれていることが知られている。これらの超微細構造について、KOマウスで異常が見られるかどうか、電子顕微鏡による組織学的解析によって明らかにする。(3)表皮脂質組成変動解析とin vitroでの活性実証。表皮(とくに角質)の脂質組成変動解析を実施し、LOG1の真の基質を探索する。同時に、表皮バリア機能に必須の新規脂質分子の同定に繋げる。薄層クロマトグラフィーにより、種々の脂質クラスごとに比較をおこない、変動の見られたものについて質量分析による炭化水素鎖の炭素数の決定など詳細な解析を実施する。また得られた情報をもとに、in vitroで基質に対するリパーゼ活性を実証する。
次年度の研究費の主要な使用目的としては、(1)抗体作成に必要な生化学実験関連の試薬と免疫動物に掛る費用、(2)電子顕微鏡関連の費用、(3)脂質変動解析に関連した薄層クロマトグラフィーと質量分析にかかる消耗品費、(4)学会発表と外国語論文校閲・投稿料、などを想定している。(1)抗体作成に必要な生化学実験関連の試薬と免疫動物に掛る費用。既述のとおり、昆虫細胞を用いた発現・精製系の構築を試みる予定である。このため培地・血清やタンパク質精製実験用の比較的高価な消耗品が必要となる。また、ウサギやニワトリなどの免疫用実験動物購入のための費用が必要となる。(2)電子顕微鏡関連の費用。一連の消耗品の他、必要に応じて、備品としてダイヤモンドナイフの購入を予定している。(3)脂質変動解析に関連した薄層クロマトグラフィーと質量分析にかかる消耗品費。薄層クロマトグラフィーの基板、質量分析用カラムなど比較的高価な消耗品を必要とする。(4)学会発表と外国語論文校閲・投稿料。次年度が本研究課題の最終年度となるため、研究成果の総括をおこなう。国内外の学会における成果発表のほか、外国語論文の投稿にかかる費用が必要になる。
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Journal of Nuclear Medicine
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10.1371/journal.pone.0022967