ミトコンドリア機能制御に関与する非受容体型チロシンキナーゼc-Srcの活性制御機構の解析を行った。増殖因子刺激により、酸素消費能、呼吸鎖複合体IV活性、ミトコンドリアタンパク質チロシンリン酸化、さらには、ミトコンドリア内c-Srcキナーゼ活性の増加が観察された。昨年度の解析からこのキナーゼ活性の増加には、自己リン酸化部位(419番目のチロシン残基:ヒト)のリン酸化は関与せず、複合体構成タンパク質の変化が関与するものと考えられた。そこで、ミトコンドリア内c-Src複合体を免疫沈降法により精製した後、二次元電気泳動法と質量分析装置による解析を行った。c-Src相互作用タンパク質として、22種類のミトコンドリアタンパク質を同定した。その中でも、キナーゼ活性の増加に伴って、相互作用量が増加する呼吸鎖複合体V(ATP合成酵素)のalphaサブユニットであるATP5A1を同定した。次いで、ATP5A1がキナーゼ活性に与える影響を解析する目的で、ヒトATP5A1をクローニングした後、FLAG-tagを融合した発現ベクターを作製した。次いで、このベクターを一過的に細胞に遺伝子導入した後、c-Src複合体を精製し、in vitro kinaseアッセイを行った。この複合体では、ATP5A1の相互作用量が増加しているだけでなく、キナーゼ活性が著明に増加していた。これらの結果は、形質膜下に存在するc-Srcとは異なるミトコンドリア内特有のc-Src活性制御メカニズムが存在することを示すとともに、ATP5A1との相互作用によりキナーゼ活性が制御されることを示唆している。ミトコンドリア内c-Srcは、エネルギーや活性酸素種産生、さらには、細胞死制御に重要な役割を果たすことから、活性制御メカニズムを解明することは、肥満や糖尿病、神経変性疾患等の加齢性疾患の発症や予防に重要な知見を与えると考えられる。
|