研究課題最終年度である本年度は、これまでに同定した新規Rheb-mTOR関連タンパク質の解析を行った。 1. mTOR複合体2 (mTORC2) の構成因子であるRictorに結合するタンパク質として同定したfilamin Aについてさらなる検討を行い、mTORC2がfilamin AのS2152を直接リン酸化することを見出し、このリン酸化が接着斑の形成を促進することを明らかにした。2. mTOR活性化因子Rhebの結合タンパク質として同定したCADの生理的意義について検討した結果、RhebはmTOR非依存的にCADの酵素活性を活性化して、細胞内ピリミジンヌクレオチド量を増大させることを明らかにした。3. mTORC1ターゲット候補として新規同定した2種類のタンパク質のリン酸化について解析し、そのリン酸化部位を一部同定した。 研究期間を通して、以下の点について重要な成果が得られた。 1. これまであまり解析されていなかったmTORC2の新規ターゲットとしてfilamin Aを同定し、mTORC2がfilamin Aを介して接着斑形成を制御することを明らかにした。mTORC2はインスリン代謝やがん細胞の増殖、転移等に関与しており、新規シグナル伝達の発見はさまざまな疾患のメカニズムの解明に役立つと考えられる。2. Rheb-mTORC1経路によるタンパク質翻訳合成調節機構に加えてRheb-CAD経路によるヌクレオチド合成調節機構を明らかにした。Rheb-mTORC1は腎がんをはじめとする種々のがんで異常活性化しており、本研究で明らかにしたRheb-CAD機構は、Rhebが細胞をがん化する機構のひとつとして重要な役割を果たす可能性がある。
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