研究課題/領域番号 |
23790351
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
勝岡 史城 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30447255)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 転写因子 / 脂質代謝 / 脂肪肝炎 / Nrf1 |
研究概要 |
生体防御関連遺伝子群の発現に寄与するNrf1の肝臓特異的欠失マウスは重篤な脂肪肝炎を示すが、その詳細は解析されていない。本研究は、Nrf1の肝臓における標的遺伝子群を明らかにし、Nrf1欠失マウスによるNASHの発症・進行の分子機序を解明する。Nrf1肝臓特異的欠失マウスの病態進行を解析した。肝臓特異的にCreを発現するAlbumin-CreによるNrf1遺伝子の欠損は4週齢から顕著となり、遺伝子の欠損後、速やかに血清逸脱肝酵素の上昇、脂質の蓄積等の病態が進行することが明らかとなった。標的遺伝子の解析では、マイクロアレイ解析を実施した。その結果、これまでにNrf1の標的遺伝子として報告されているプロテアソームサプユニット遺伝子の発現減少の他、脂質代謝、アミノ酸代謝関連遺伝子の減少、ミトコンドリア呼吸鎖遺伝子の発現減少、細胞増殖関連遺伝子の増加を認めた。脂質代謝関連の転写因子、転写共役因子遺伝子の発現が減少していたため、特に注目して解析を実施した。これら遺伝子の発現の低下は、定量的RT-PCRによっても確認された。転写共役因子として機能することが知られているLipin1とPGC-1bについては、遺伝子制御領域にNrf1-Maf二量体の結合配列を見いだし、レポーター遺伝子解析、ゲルシフト解析、ChIP-qPCR解析の結果より、Nrf1-Mafの直接の標的遺伝子であることを明らかにした。さらにゲノムワイドにNrf1の直接の標的遺伝子を同定する目的として、Nrf1と小Maf群因子のChIPシークエンス解析を実施した。小Maf群因子の結合部位については、精度の高い結果が得られている。しかし、Nrf1については充分な結果が得られておらず、抗体の検討を含め再度実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
病態進行の経時変化の解析を本年度の計画の一つにあげていたが、病態初期の進行についての一定の成果をあげることが出来ている。また、計画にしたがってマイクロアレイ解析を実施、Nrf1の欠損によって影響を受けるパスウェイ、特に脂質代謝、アミノ酸代謝に関わるパスウェイを同定することができた。また、少なくともNrf1が転写共役因子として機能するLipin1とPGC-1bを直接制御することが明らかとなった事は、脂質代謝に対するNrf1の機能を考察する上で重要な成果であると考えている。これら遺伝子の発現減少が、Nrf1欠失マウスの病態発症に一定の寄与をしている事が示唆された。これら遺伝子は、計画にしたがって実施したHepa1細胞でのNrf1ノックダウン解析でも減少することを示している。一方、Nrf1と小Maf群因子のChIP解析については、特にNrf1の結合部位についての精度の高い結果を得ることが出来なかった。原因としては、抗体の特異性の問題が考えられる。一方、小Maf群因子の結合部位については、精度の高いデータが得られており、これらの情報は、Nrf1-Mafヘテロ二量体の標的遺伝子の解明に多いに役立つと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
Nrf1欠失マウスの病態進行の解析については、Nrf1遺伝子欠損直後の病態初期の解析で一定の成果があがっているので、今後は、遺伝子欠損後の長期経過についての解析を行っていく。また、Nrf1は、定常状態でも一定の機能を果たしていることが明らかであるが、何らかの刺激やストレスで更に活性化することが期待されている。Nrf1の活性化刺激の探索については、当初の計画とおり実施していきたい。活性化刺激が同定された場合には、活性化状態でのChIP解析等を検討したい。Nrf1活性化モデルについては、Nrf1トランスジェニックマウスを作製し、NASHモデルに対するNrf1の保護効果の有無を検討していく予定である。この目的では、既に外来性のNrf1を発現する複数系統のトランスジェニックマウスを得ている。このマウスに対して、高脂肪食負荷などを行い、Nrf1の生理的な脂質代謝に対する機能を明らかにしたいと考えている。この外来性のNrf1には、FLAGタグを融合させているため、ChIP解析で特異性の高いNrf1抗体が準備できなかった場合は、本マウス組織と抗FLAG抗体を用いたChIP解析の実施も検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、Nrf1トランスジェニックマウスを用いたNrf1のエネルギー代謝に対する生理的な機能の解析が一つの大きな目標となるので、これらに関わる遺伝子組換えマウス作製、マウスの維持、各種染色等の組織学的な解析や、生化学的、分子生物学的な解析に関わる費用が見込まれる。また、Nrf1活性化刺激の探索では、培養細胞を用いた解析が中心となるため、細胞培養に関わる培地、血清等の費用も見込まれる。ChIP-シークエンスの再解析の見込みがたった場合には、これに関わる費用も見込まれる。
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