研究課題
本年度は、腸粘膜上皮細胞特異的に発現する受容体型チロシンホスファターゼSAP-1とその基質候補分子p100を介したシグナル伝達系による腸管免疫システム制御のメカニズム解明を目指した研究に取り組み、以下の研究成果を得た。1)培養細胞を用いた解析から、p100はSAP-1と結合する性質があることが明らかとなった。また、このp100のチロシンリン酸化レベルの亢進とそれに伴うチロシンキナーゼのp100への結合により、腸炎の発症や重篤化に関与すると示唆されているケモカインの産生の促進が認められた。以上の実験結果から、SAP-1は腸粘膜上皮細胞を介した腸管免疫応答の制御に関与し、その制御機構の一つとしてSAP-1/p100シグナル系によるケモカイン産生制御が寄与している可能性が強く示唆された。2)以前の研究において炎症性腸疾患のモデルマウスであるIL-10欠損マウスに比べ、IL-10/SAP-1二重欠損マウスではケモカインの発現量が増加しているという知見を既に得ていたが、腸炎が起こる前の幼若なIL-10/SAP-1二重欠損マウス(4週令前後)においてもすでに腸管でのケモカインの発現量が増加傾向にあることを見出した。3)作製した腸粘膜上皮細胞特異的にp100を高発現するトランスジェニックマウスの解析を行った。予想に反し、このトランスジェニックマウスでは大きな異常は認められないことが明らかとなった。そこで、p100を脱リン酸化するSAP-1の欠損マウスとp100トランスジェニックマウスを交配することでSAP-1欠損/p100トランスジェニックマウスを作製すると同時に炎症性腸疾患モデルマウスであるIL-10欠損マウスとの交配も進め、SAP-1/p100の腸管免疫制御における機能の解析を始めた。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書作成時においてはSAP-1が腸管免疫システム制御を担っている可能性を示唆していたが、その分子メカニズムを明らかに出来ていなかった。しかし、現在までの研究によりSAP-1の基質候補分子p100を介した腸管免疫システム制御の分子メカニズムが明らかとなりつつある。従って、研究の目的達成に向かって研究は順調に進展していると判断できる。
これまでの研究を継続しつつ、得られた研究成果をもとにSAP-1とその関連分子による腸管免疫制御の分子メカニズムをさらに詳細に解析する。特に、動物個体レベルでSAP-1/p100シグナル系による腸管免疫システム制御のメカニズムについて明らかにすることを目的として、IL-10/SAP-1二重欠損/p100トランスジェニックマウスやp100欠損マウスを解析する。また、SAP-1欠損マウスの腸粘膜上皮細胞でリン酸化の亢進しているp100以外の分子や、p100の下流で機能する分子について分子間のつながりを明確化し、腸管免疫系を制御するシグナル伝達系の全体像を明らかにする。
上記の研究を推進するために研究費は一般試薬の購入、実験動物の飼育・購入、プラスティック・ガラス器具の購入に使用すると同時に、研究成果発表のために学会参加のための旅費、論文投稿料に使用することを計画している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Journal of Neurochemistry
巻: 121 ページ: 891-902
10.1111/j.1471-4159.2012.07748.x.
The Journal of Immunology
巻: in press ページ: in press
巻: 187 ページ: 291-297
10.4049/jimmunol.1100528
http://www.med.kobe-u.ac.jp/tougou/signal/index.html