研究課題/領域番号 |
23790362
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
大隈 貞嗣 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70444429)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生活習慣病 |
研究概要 |
われわれは作製した変異マウス(血管血球系特異的p38αノックアウトマウス)において、体重測定、耐糖能試験、インスリン抵抗性試験、血中遊離脂肪酸を測定した。この結果、高脂肪食投与時において変異マウスでは体重増加、空腹時高血糖、血中遊離脂肪酸の上昇が有意に抑制されていた。また耐糖能試験、インスリン抵抗性試験においても、変異マウスでは高脂肪食投与において顕著な耐糖能とインシュリン感受性を保つことがわかり、血管血球系特異的のp38αが高脂肪食による肥満とインスリン抵抗性の惹起に必要であることを明らかにした。また内臓脂肪組織に浸潤したマクロファージを分取し、フローサイトメトリーを用いて解析し、変異マウスではCD11c陽性の炎症性マクロファージの浸潤が抑制されていることを明らかにした。血球中の単球サブタイプに有意な差は認められなかったため、これはマクロファージの浸潤能の変化によるものと考えられる。脂肪組織、肝、および筋における代謝制御系の遺伝子発現を検討した結果、変異マウスの脂肪組織では高脂肪食投与によるIL1、IL6、TNFαなど炎症性サイトカインの発現が顕著に抑制されていることがわかった。アディポサイトカインであるアディポネクチンの発現は通常食、高脂肪食いずれの場合も変異マウスで増大しており、逆にPAI1は変異マウスで減少していた。これにより血球系による脂肪組織への作用が示唆された。肝においては、脂肪酸合成律速酵素および脂肪酸β酸化律速酵素の発現パターンが変異マウスでは変化しており、肝内部の血球系細胞が脂質代謝に影響を与えている可能性を示唆している。これらの成果は、p38αMAPKが個体レベルで肥満やインスリン抵抗性を制御しており、その効果は主に血管血球系において発揮されていることを世界に先駆けてしめすものであり、基礎研究および今後の治療方法開発において大きな意義を持つものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画はおおむね順調に実施されている。変異マウス(血管血球系特異的p38αノックアウトマウス)における高脂肪食投与時の生理的データについては、体重、空腹時血糖、耐糖能、インスリン抵抗性、血中遊離脂肪酸を測定し、有意な変化を見いだした。呼吸商についても検討を行ったが、こちらでは顕著な差は認められなかった。脂肪組織への免疫細胞の浸潤に関しては、マウス脂肪組織からの浸潤細胞の分取と、フローサイトメトリーによる解析を行い、炎症性マクロファージの動態変化をみいだした。ソーティングによって分取した脂肪組織内炎症性マクロファージにおける遺伝子発現は現在解析中である。各臓器における遺伝子発現については、肝、筋、脂肪組織においてリアルタイムPCR法を用いて検討した。いずれの臓器においても、変異マウスでは炎症性サイトカインおよび代謝制御系の遺伝子発現が変化しており、血球系p38αが臓器の機能を制御していることを明らかにした。また、より遺伝子破壊の範囲が限定されるマクロファージ特異的p38αノックアウトマウスの作製を開始し、生存仔を得ることに成功した。現在実験用に繁殖中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、脂肪組織浸潤マクロファージのより詳細な機能、特に炎症性サイトカイン、ケモカインによるケモタキシス(走性)について検討を行う予定である。また野生型および変異マウスにおける炎症性マクロファージの遺伝子発現変化をより詳細に解析し、マーカーまたは創薬ターゲットとして利用可能な因子を探索する。これらの結果がまとまり次第、論文作成と投稿を行う。また現在解析中の血管血球系特異的p38αノックマウスにおいては、血管内皮細胞や多様な血球の影響が排除しきれないため、マクロファージ特異的p38αノックアウトマウスを作製し、高脂肪食投与による肥満および血糖制御への影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の主な使用対象は、実験動物の維持管理、遺伝子改変マウスのタイピングPCR試薬、フローサイトメトリー用試薬および抗体、ケモタキシスアッセイ用試薬、血糖測定用試薬、インスリン測定用ELISA試薬、リアルタイムPCR用酵素およびプライマー、サブトラクションアッセイ用試薬、組織切片分析用試薬、学会出張費、論文投稿料などの予定である。
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