研究課題/領域番号 |
23790363
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大坪 和明 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい准教授 (30525457)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵臓β細胞 / 高脂肪食 / 糖鎖修飾 |
研究概要 |
本研究では糖尿病抑制因子GnT-IVaを標的とした新規糖尿病治療薬開発を究極的な研究目的に掲げ、1)化合物バンクのスクリーニングによるMgta4a発現誘導化合物の探索、2)β細胞における多面的なGnT-IVa機能の詳細解析、3)β細胞機能保持による末梢組織への作用の解析、といった包括的検討を行い研究開発の基盤を確立する。課題1)の化合物バンクのスクリーニングによるMgta4a発現誘導化合物の探索の実施にはMgat4a遺伝子プロモーター領域を持つレポーター遺伝子の構築およびその組み換え遺伝子を導入した膵臓β細胞株を樹立する必要がある。今年度の研究によりその構築と樹立に成功し、次年度からの化合物の探索の実施を可能とした。また、個体レベルでの薬効評価試験を実施する前提条件として「Mgat4a Tgマウス末梢組織でのインスリン抵抗性の軽減」の生理学的機作を解明することが不可欠である。そこで、高脂肪食負荷Mgat4a Tgマウス末梢組織でのインスリンシグナル伝達経路、インスリン感受性、血糖吸収能等の経時的解析により、β細胞の機能保持と末梢組織でのインスリン感受性の相関関係の解析を実施した。今年度のこれらの研究から膵臓β細胞におけるグルコース刺激によるインスリン分泌機能を維持する事で、末梢組織におけるインスリンシグナルを正常に維持できる事を発見した。また、アメリカ・カリフォルニア大学・サンタバーバラ校のJamey Marth博士および、サンディエゴ校のJerroid Olefsky博士、Mark Chen博士との共同研究から、ヒトの2型糖尿病においても同様のメカニズムが存在する事を発見した。これらの結果は、本研究が目指す「糖尿病抑制因子GnT-IVaを標的とした新規糖尿病治療薬開発」が非常に現実的である事を意味しており、次年度以降の研究の実施に弾みを付けるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、膵臓β細胞におけるGnT-IVaの糖鎖機能の解析および糖尿病抑制因子としての意味付けを高脂肪食負荷2型糖尿病マウスをモデルとして行う事を予定していたが、ヒト糖尿病のメカニズムの解明を目指した共同研究の成果が予想よりも早く完了し、しかも、これまでの我々の研究結果と非常に一致していることが判明したことから、本研究が目指す「糖尿病抑制因子GnT-IVaを標的とした新規糖尿病治療薬開発」が非常に現実的である事のみならず、実際のヒトの2型糖尿病の治療に直結することが強く示された。また、次年度からの化合物の探索の実施に不可欠なスクリーニングの系が確立でき、予想を上回る進度で研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究では、初年度に樹立したスクリーニング用細胞を用いて、Mgat4aプロモーター活性化を指標として化合物バンクのスクリーニングをおこない、候補化合物の探索を行う。得られたヒット化合物についてMgat4a発現誘導のメカニズムを細胞レベルで解析する。具体的には(1)EMARS反応によるヒット化合物を認識する受容体のビオチン標識・精製と質量分析による同定を行う。加えて(2)抗体アレイ解析による細胞内下流シグナル伝達系の解析を行い、Mgat4a Tgβ細胞内シグナル伝達系と比較検討する。同時に(3)ヒット化合物について細胞毒性試験を実施し細胞レベルでの安全性試験を行う。さらに細胞レベルでの薬効が確認されたヒット化合物について、高脂肪食負荷マウスへの投与実験を行い、β細胞におけるMgat4a発現、タンパク質の糖鎖修飾、GLUT2のβ細胞内局在、β細胞のインスリン分泌機能を解析することにより、個体レベルでの薬効評価を行い、リード化合物のを得る。また、引き続き高脂肪食負荷マウス膵臓β細胞の機能解析、とりわけシグナル伝達機能の変化に焦点を当て研究を進める。加えて、糖鎖修飾による脂質マイクロドメインを介した分子機能クラスター形成を解明するため、EMARS法により、細胞膜マイクロドメインに局在するGLUT2またはGPCRと相互作用している分子群をビオチン化し、精製後、質量分析により分子を同定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では、生化学的解析、分子生物学的解析、質量分析による分子の同定、マウス個体を用いた生理学的解析など幅広い実験手法を用いた実験を多用するため、それに係る試薬・消耗品を購入したい。また、前年度に続き、高脂肪食負荷マウスを用いた動物実験を実施するため、かかる動物飼育・管理費用に研究費用を充当する必要がある。これらが主な研究費の支出項目である。また、加えて本研究より得られた成果を生化学会大会等の学会で発表するための旅費を支出する必要がある。
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